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アンドロイド転生948

2118年12月24日 夜
イギリス:チェルシー地区の教会

オルガンが響いた。クリスマスメドレーだ。子供達が歌い出す。やがて大人も混じって笑顔で大合唱になった。館内は老若男女、貧富の差などなく皆がそのひと時を楽しんでいる。

「Emma!help me!come on!」
白人女性に笑顔で声をかけられた。エマはオルガンから手を離すと立ち上がって近くの少女とバトンタッチする。少女が弾き始めた。

エマは女性と連れ立ってキッチンに行った。英語が堪能なエマは会話に支障はない。以下は英語の会話である。女性は微笑んだ。
『シチューを配るの。一緒にやって!』

エマもニッコリとして頷いた。キッチンはビーフシチューの良い香りが充満していた。湯気が立っており熱々だ。身体が温まるだろう。窓を見るとチラホラと粉雪が舞っていた。

幾つもの鍋が教会の入り口に運ばれた。トレイを持った人々が待ちかねたように期待に瞳を輝かせた。教会のクリスマスイベントではチャリティ活動を行っていた。誰もが食事を楽しめるのだ。

エマは皿にシチューを注いだ。
『皆さん。配りますよ。パンもあるからね!はい!Merry Xmas!!』
人々はシチューを受け取る度に微笑んだ。

エマも笑顔で1人1人に声をかけた。手先も息も白くなった。寒いけれど心は温かだった。こんな風に誰かの為に出来る事が嬉しかった。エマは2ヶ月前から熱心に活動していた。

仲間達とシチューを配った後はエマもホットワインで乾杯した。女性は興味の目を向けた。
『エマ。日本でもチャリティしてたの?』
『ううん。してなかった』

エマの瞳が空を仰いだ。遠い目になる。
『私…日本では…ボランティアなんて考えもしなかった。いつも自分の事ばかりだった。クリスマスは仲間達と大騒ぎしてただけ』

そう。エマはマジョリティ(人間の男女とも、アンドロイドとも肉体関係を結ぶ類の人間)だった。同じ趣味の仲間と浮かれて、その後は毎回乱行パーティに行き着くのだ。

馬鹿だったとは思わない。それは人生のひとつの頁に過ぎない。自分で決めて楽しんでいた事なのだから。馬鹿だったのはそれが暴かれてショックで自殺未遂を図った事だ。

命を安易に捨て去るなんて良くないのだと気付いた。私は自分の命に責任があるのだ。まずは自分自身を大事にしないと他人に優しく出来るものか。エマはまたひとつ成長したのだ。

リョウにお百度参りしろだなんて…あまりに横暴だった。暴かれたとは言え、元々自分で乱行パーティに参加したのではないか。だから100日間前に来なくて良いとリョウに告げた。

それなのに彼は約束を守ってくれた。嬉しかったし信念がある人なのだと感心した。だから自分も信念を持とう。恥じない自分になろうと決めた。まずは引き篭もりから脱却するのだ。

母親と一緒にジムやプールに通い、またピアノを再開した。自分は日本ではプロだったのだ。また音楽の道で生きたい。今はイギリスの音楽事務所に売り込んでいるところだ。

この先はオーディション受けて合格すれば少しずつ自分の道も開けていくだろう。エマはやる気に溢れていた。人は倒れても立ち上がり歩いて行くのだ。そう。七転び八起きと言うではないか。


※エマとリョウの最後のシーンです


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