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アンドロイド転生604

茨城と福島の県境の麓:山間

モネの顔に雨の雫が一粒当たった。直ぐにパラパラと落ちて来た。モネの瞳が開いた。目の前は暗闇だった。左右に首を捻った。青臭い匂いがする。これは…草のような…。

ゆっくりと起き上がった。ここは…どこ?冷たい雨が身体に当たる。周囲を見渡し、鬱蒼とした樹々に囲まれている事を知った。思い出した。茨城県の山中に来た事を。

そうだ。ルイと待ち合わせをしていた。だけど尿意を催し茂みで用を足した。そしたら子熊がいたんだ。すぐそばに母熊がいて…立ち上がって…吼えて…。恐怖を感じた。

ザイゼンが逃げろと叫んだ。我に返って走り出した。山道を闇雲に進んだ。だけど直ぐに足を取られてしまった。そうよ。革靴なんて滑るものね。それで斜面を転がり落ちたんだ…。

モネは冷気を感じて震えた。すっかり陽が落ちて辺りは暗い。山の中は夜になるとこんなに真っ暗なの…?天を見上げると巨木が空を覆い隠している。押し潰されそうな気分になった。

モネは立ち上がった。右足首に衝撃を感じた。激しい痛みだった。顔が歪み、息が吸えなくなる程だった。しゃがみ込んで足を押さえた。もしかして…折れたの…?どうしよう…。

「ゼンゼン…。どこ…?」
執事アンドロイドのザイゼンの渾名を呟いた。息を吸い込み彼の名を叫ぼうとしたが、ハッと気付く。大声を出してまた熊が来たらまずい。

パラパラだった雨足が強くなって来た。バタバタと音がして樹々が騒めく。
「ど、どうしよう…」
でもこのままここには居られない。

モネは今度は慎重に立ち上がった。周囲を見渡し斜面を見上げた。あんな高い所から落ちたのかと思う。と言う事はここを登らなくてはいけないのか。こんな足で出来るだろうか…。

近くに長い木が落ちていた。片脚を庇いながらヨタヨタと進んで、木を拾った。長さは充分だった。これを杖代わりにしよう。雨はモネを打ちつけた。これでは体温が奪われてしまう。

「ああ。何でこんな事になったの…?ゼンゼンどこにいるの…?ああ。ルイ…助けて」
こんな時にスマートリングがない。ルイに貸してしまったのだ。

物心ついた時から身に付けていた携帯電話。様々な機能があって便利なツール。大事なデバイス。これがないとは私はなんて無防備なのだろうか。丸裸になった気分だった。

モネとザイゼンとの距離は900m程度だったが、その間には道なき凹凸と急斜面があった。しかも辺りは暗い。お互いの場所が認識出来なかった。更に雨である。モネは窮地に陥った。

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