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アンドロイド転生991

2119年8月16日
タカミザワ邸 玄関にて

「では行って来ます」
アオイは大きなリュックを軽々と背負った。隣にはサツキもいる。彼女もやはり大荷物だ。中身は昨日買い込んだお土産が満載だった。

2人はこれから茨城県に向かう。アオイはメンテナンス。やはり年に1度はすべきだ。車検のようなものである。サツキはホームに戻る。彼女にとって家は白水村の集落なのだ。

一昨日は育て子のハルとナツと4年振りの再会を果たした。サツキはタカハラ家に戻らない。もうナニーの役目を終えたと言い切った。サツキの言葉にアオイとモネの心は揺らいだ。

だが2人の絆は強く離れ難い。昨晩、モネはアオイの自室にやって来た。上目遣いになる。
「ちゃんと…帰って来るよね?」
「はい。私はシオンのマネージャーですから」

モネの瞳が煌めいた。
「そうだよね!カーにはちゃんと仕事があるんだもんね!うん。分かった。じゃあシッカリと見てもらって元気で帰って来てね!」

アオイが頷くとモネはホッとした様子で部屋を出て行った。そうよ。私にはちゃんと役目がある。モネ様に依存してるわけじゃない。だから大丈夫。タウンで暮らしても良いの。うん。そう。

・・・

ホームに到着して村民の歓迎を受けたアオイ。子供はおよそ半数に減っていた。今残っている子供は滅亡派だけだ。笑顔の彼らを見て切なくなる。本当は彼らにも未来を与えて欲しいと思う。

キリがやって来てアオイを丘に連れて行った。沢山の花が手向けられている場所があった。トワ、ミオ、ルーク、そしてエリカの眠る場所だ。エリカの葬儀はしなかったが同じ墓に埋めたのだ。

昨年の春にアオイがホームを出た後にミオ達はこの世を去った。アオイは神妙な気持ちになりしゃがみ込むと手を合わせた。彼らとの想い出が蘇り、気付かぬうちに涙が溢れた。

次にリペア室に行く。アオイはリョウのデスクを見た。長い間不在という空気が漂っている。
「まだリョウは帰って来ないの?」
「彼女が出来たんだって!」

アオイは目を丸くする。
「えっ!あのリョウが?ボサボサ(髪)でヨレヨレ(服)でボーボー(髭)のリョウが?」
キリはアオイの言葉に大笑いした。

「皆んな同じ事を言う。そうだよね?リョウって言ったらそんなイメージしかないよね?それがさぁ!変わったよ。爽やかになった」
「へぇ…!」

「凄い美女に熱烈に愛されてるらしいよ」
「へぇ…!!」
「だからそう言うもんなんだよ」
「うん。そうね…分かる」

アオイはキリの言わんとする事を理解した。そうなのだ。誰にでも相性というものがある。誰かにはマイナスでも誰かにはプラスなのだ。そんな人と遠い地で巡り会えたのだからめでたい話だ。

そしてアオイは寝台に横になりメンテナンスを受けた。数時間後には全て終了し、サッパリとした気分になった。夜は村民達とパーティだ。歌ったり踊ったり。楽しいひと時だった。

2日間をホームで過ごしてアオイは東京に帰る事になった。キリとサツキと子供達が見送った。
「アオちゃーん。元気でねぇ!また来てねぇ!」
「うん!またお土産を持って来るね!」

アオイは何度も振り返り、何度も手を振って山道を降って行った。私にはふたつも家があるのだと嬉しかった。何処でも自分を温かく迎えてくれるのだ。幸せってこんな事を言うのだろう。

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