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アンドロイド転生600

茨城と福島の県境:山間の谷

執事アンドロイドのザイゼンは熊に背後から襲われ首に牙を当てられた。斜面を滑り、熊もろとも谷に落ちた。熊は身体をあちこち打ちつけたものの直ぐに起き上がって頭を振り回した。

ザイゼンは仰臥して首をあり得ない方向に曲げていた。熊はザイゼンに向かって咆哮を上げた。何度も吼えたが敵が動かない為、危険は去ったと判断し斜面を登って去って行った。

ザイゼンは起き上がったが頚椎が折れていた。頭が真横や背面を向いてしまう。側頭部を片手で支えた。なんて事になったのか…。それよりも今直ぐに主人のモネを探さなければ…。

「モネ様…!モネ様…!」
声が掠れた。どうやら声帯も損傷したようだ。これは非常にまずい。これではモネに自分の居場所を知らせる事が出来ない。

ザイゼンは周囲を見回した。陽が落ちているが高感度アイは世の中を鮮明に捉える。聴覚も最大限に上げた。どうか。どうか。モネ様、お声をあげて下さい。だがモネの声はしない。

ザイゼンはモネの母親のサクラコの携帯電話をコールした。何度も鳴らしたが繋がらない。彼女は画家で間近に迫った個展の準備で手が一杯なのだ。そんな時は電源をオフにする。

ザイゼンはモネの電話をコールした。先ほど媒介してモネは少年と通話していた。モネが貸したと言う相手だ。宙空に少年の姿が浮かんだ。
『モネ?麓に着いたぞ。どこにいるんだ?』

「ルイ様。覚えていますか?執事のザイゼンです。モネ様のご自宅でお会いしました」
彼の掠れた声をルイは何とか聞き取った。勿論覚えている。絶品のケーキを出してくれた。

「ルイ様。モネ様とはぐれてしまいました」
ルイは驚いて目を見開いた。ザイゼンは経緯を説明した。熊と遭遇し、モネは反対方向に走り出したと。自分は谷に落ちて頚椎を損傷したと。

「ルイ様の居場所はスマートリングのGPSで分かります。私と2.4km程離れています。あなた様も私の居場所が分かりますね?申し訳ありませんが、こちらまでお越し願えますか?」

ルイは眉根を寄せた。ザイゼンの居場所が分かるだと…?ルイはザイゼンの言っている意味が理解出来なかった。携帯電話を所有した事がないのだ。様々な機能を知らなかった。

『え…。どこに行けばいいんですか?』
そしてザイゼンもルイの言っている意味が分からなかった。スマートリングを扱えない人間がいるなど思いつかなかったのだ。

だが説明を試みた。
「マップで私のGPSを追って下さい」
『マップって何ですか…?』
ザイゼンは呆気に取られ言葉を失った。


※ザイゼンとルイが出会ったシーンです


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