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アンドロイド転生952

2119年3月 夕方
東京某所 カラオケボックスにて

「じゃあ。また10日後」
シオンは無言だった。店を出ると2人は反対側に別れた。シオンは大通りを歩く。人々が彼の銀髪と美しい容姿を見て驚く。どれも好意的だ。

けれどシオンの心は闇に包まれていた。背筋を悪寒が走っている。今直ぐに家に帰って歯を磨き、シャワーを浴びたい。舐められた耳や首筋を洗いたい。消毒薬を使いたいくらいだ。

キスだけだと思っていたのに、カズキはどんどんエスカレートしてきた。どうしよう…。どうしたら良いんだろう。脅迫って凄いな。恐ろしいな。人をいとも簡単に思いのままにするんだから。

17歳のシオンは分かる。この先の展開が。僕はこの先もずっと脅され続けるんだろうな。そして…最後は…。ヤラれる…。恐ろしくて気が遠くなりそうだ。怒りで涙が出そうだった。

胃から何かが迫り上がってきた。喉がヒリヒリとする。胃液だ。最近は食欲がなくて腹はいつも空なのだ。シオンは何とか飲み込んだ。道端で吐いてはならない。家まで耐えろ。

シオンはカズキの事を考えた。同性愛者なのに妻帯者だ。金で繋がった仲らしい。とは言え妻は何も知らないだろう。カズキを心底嫌悪する。身内を騙し自分を脅すのだ。

カズキは帰宅したら平気な顔で妻にキスをするのだろうか。何も知らない女は喜んで応じるのだろうか。キモい。キモ過ぎる。そして…自分もキモい。あんなジジィとキスしたんだ。

家の近くの通りを俯いてシオンは歩いた。
「シオン!」
顔を上げるとトウマだった。
「お帰り」

制服姿のシオンをトウマは見つめている。そう。僕は高校生なんだ。まだ。だけど僕は…汚れている…。思い出すと吐き気がしてくる。
「はい…」

トウマは不思議そうな顔をした。 
「ん?なんか元気ないな?どうした?」
「あ…いや…何でもないです」
「そうかな…」 

トウマは近づいて来てシオンを見下ろした。トウマの方が少しばかり背が高いのだ。
「なんかさ…最近…痩せたろ?」
「え…」

そう。痩せたのだ。食欲がめっきり失せてしまった。トウマは心配そうな顔をする。
「なんか…悩みでもあるのか?」
ある。大アリだ。でも言えない。言えるものか。

「だ、大丈夫です」
「いや。大丈夫じゃなさそうだ。もし…良かったら…話を聞くぞ」
シオンはトウマの気遣いに胸が苦しくなる。

トウマはシオンが心配だった。誰もが分かる。シオンは問題を抱えていると。何とか力になりたかった。トウマは話を変えた。
「メシ食いにいかないか?」

シオンは驚いた。トウマは微笑む。
「旨いメシ屋があるんだ。お粥専門店なんだ。でも物足りなくないぞ。沢山トッピングもあるし、生薬もあるんだ。元気になるぞ」

シオンは頷いた。お粥なら良いかも…。あ。でもその前に歯を磨いて耳と首を洗いたい。綺麗になりたい。2人は15分後に会う約束をして別れた。シオンの心が少しだけ浮上した。

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