見出し画像

アンドロイド転生933

2118年12月20日 昼過ぎ
サクラコのマンション

シオンの絵を抱えてサクラコの元を訪れたトウマ。サクラコはアオイに問う。この絵は本人と似ているかと。シオンと暮らしたアオイは力強く頷いた。トウマは素晴らしく描けていたのだ。

サクラコは瞳を輝かせてシオンに会いたいと言い出した。アオイは丁寧に嗜めた。シオンとルイは親戚なのだ。いつかモネと繋がるかもしれない。それはサクラコにとって都合が悪かろうと。

サクラコは残念そうな顔をする。
「そうね。こんなに綺麗な男の子なんて実物を見てみたかったけど、下手に関わってモネがルイ君と復活したり…また家出なんてしたら困るわ」

家出…。そうなのだ。モネはルイとの恋を貫く為に家を出た。それで茨城県の山中で遭難してしまった。足首を骨折する重傷を負った。親としてはもう2度とそんな目に娘を遭わせたくないだろう。

トウマは何が何だか分からない顔をしていたが、どうも風向きが良くないと判断したようだ。キャンバスを仕舞おうとする。
「あ。待って。トウマ君」

サクラコはもう一度絵を繁々と眺めた後、トウマに教示を始めた。トウマは真剣な顔をして頷いた。話の内容からどうやら展覧会に出展するらしい。アオイはそっとアトリエから出た。

キッチンに行くと銀食器を磨いている執事アンドロイドのザイゼンが微笑んだ。アオイが溜息をつくと不思議そうな顔をする。
「どうしたのですか」

「トウマ様とホームの子が繋がりました」
「そうですか。ご縁ですねぇ」
「ルイとトウマ様が繋がらないように願うばかりです。モネ様がお可哀想なので…」

ザイゼンは顔を引き締めた。彼はモネが遭難した時の当事者だった。ルイとも接点があるのだ。ザイゼンは残念そうな顔をする。
「ルイ様は…素晴らしい人です。ですから…」

ザイゼンは黙り込んだ。アオイは彼の思いを汲み取った。きっと…2人の恋が成就して欲しかったと言いたいのだろう。
「ザイゼンさんの気持ち…分かります…」

アオイが呟くとザイゼンは頷いた。それから2人は黙り込んでしまった。ザイゼンに自意識の芽生えはないけれど、モネの想いを叶えたいというマニュアルが働いているに違いない。

夕方になりレッスンを終えたトウマはキャンバスを抱えて生徒達とアトリエから出てきた。満足そうな顔をしている。サクラコのアドバイスで自信を持ったようだ。展覧会は来春らしい。

するとモネが学校から帰って来た。
「トウマ。大きなキャンバスだねぇ…!」
アオイはハラハラとする。見たいと言い出したらどうしようと思ったのだ。

勿論、モネはシオンの事は知らない。だが彼の特異な姿を見て平家の子孫だと確信するだろう。そしてルイの親戚だと知る。また辛い思いをするかもしれない。それは望ましくない。

トウマは気まずい顔になる。サクラコをチラリと見た。どうやら全てを聞かされたようだ。
「俺…急ぐんだ。じゃな。モネ」
「うん。またね」

トウマは帰って行った。アオイは胸を撫で下ろした。モネにはもうホームの誰とも関わって欲しくない。まだルイに想いを寄せているものの少しずつ立ち直って来たのだから。

モネはバタバタと自室に入って行った。着替えてからまた外出するのだ。彼女は女優を目指す為にスクールに通っている。夢の為に。そう。未来を見てくれれば良い。それで良いのだ。


※遭難した時の抜粋です


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?