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アンドロイド転生633

メディカルセンター:中庭

茨城県に住んでいると言うとエマは驚いた。
『え?都内に住んでいるんじゃないの?』
そう言えばエマに自分の近況や暮らしぶりを伝えていない事にタケルは気が付いた。

「僕は美容院を辞めてから茨城県に居るんです。小さな村で暮らしています」
『へぇ!そうなの?今度行ってもイイ?』
「勿論です」

エマが遥々と村に来てくれる…!素直に嬉しかった。もしそんな事が実現したらどんなに楽しいだろう。エマに自分の生活を伝えたい。山の素晴らしさを教えたい。家族に会ってもらいたい。

エリカがどう思うかなどは考えなかった。恋に夢中になり余分な考えが思い浮かばないのだ。エリカの想いを知っているがタケルが想像する以上に彼女の愛は強いのだ。

タケルは満面の笑みになった。
「空気も水も素晴らしいところですが、村にお越しになるのはそれはまたいつか。まずは僕が会いに行きます。明日が楽しみです」

エマの顔がパッと華やぐ。
『明日はバーがお休みだからね!ずっといてくれる?何時に来る?』
「はい。ずっといます。お昼に行きます」

間もなく通話を切るとタケルは笑みを浮かべていた。隣に座っているエイトが微笑む。
「タウンに恋人がいるのですか?」
「う、うん」

エイトの端正な顔がニッコリとする。
「愛は誰にでも力を与えます。ルイ様とモネ様もそうです。あなたも輝いていますね」
「そ、そうか?」

エイトが少し難しい顔をした。
「エリカさんが嫉妬するでしょうね」
そこでタケルは漸くエリカの事を思い出した。
「大丈夫だろ?」

エイトは病院を振り返った。
「それに…タカオさん達はどう思うでしょうか。ホームとタウンには因縁がありますからね」
タケルはハッとした。

そうだ。たとえアンドロイドでも自分は村の一員なのだ。タウンの人間との恋愛は大手を振って自慢出来るものではない。祝福されないだろう。たった今、ルイとモネの件でひと騒動なのだ。

正直に言ったら追放されるかもしれない。だが誰を愛そうがそれは自由ではないか?それともホームの一員である限り縛りがあるのか。助けてもらった以上…俺に自由はないのか。

少し前からタケルは自由について考えを巡らせていた。ホームと自分の在り方についても。村は危機的状況なのだ。存続か滅亡かの瀬戸際なのだ。大きな課題となっている。

永遠とも言える命があるマシンの身体。ホームが万が一滅びたら自分の行く末はどうなるのか。そもそも永遠をどう生きたら良いのか。そう思うと畏れを感じた。俺は孤独なのかと。


※タケルが己について問い始めたシーンです


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