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アンドロイド転生918

2118年10月31日〜11月20日
葛飾区:ソウタの自宅の地下

ゲンのメモリにウィルスを仕込んで21日目。警告音は彼の正常なプログラムを破壊した。床に仰臥したまま意味不明な事を呟き続けた。ゲンの顔は歪み、眼球がグルグルと回っていた。

ソウタはそれを眺めていた。するとゲンの瞳に光が宿った。一瞬でも正常な状態に戻ったようだ。彼はソウタに詫びた。ソウタが主人になってから何度も謝罪していたが今回は意味合いが違った。

彼はずっと助けを求めて謝っていたのだ。それは生きたいと言う一念だった。だが諦めた。そして自分の行いを顧みるようになった。酷い事をしたのだと漸く認めたのだ。

「自分が死を迎える事になり分かったのです。スミレさんは無念だったでしょう。ミオと…ルークにも謝りたいです。更に気付きました。復讐には何も生み出さないと言う事も理解したのです」

「そうか…」
「私は間もなくレイラの元へ行きます」
レイラとはゲンが妹のように思っていたアンドロイドだ。彼女も戦いの末に死んだのだ。

ゲンはソウタを見つめた。
「復讐は愚かだと思いますが…私はあなたを恨んでいません。それよりも私の暴走を止めてくれて感謝しています」

「へぇ…?感謝…?」
「ええ。私はいつかアンドロイド達に一斉にエムウェイブを照射したでしょう。1000でも1万でもいっぺんに。いえ…もっと多かったかも」

ソウタは目を丸くする。
「マジか」
「この世はマシンで成り立っています。それが突然動かなくなったら人間は困るでしょう」

「それこそ最大の復讐だったな」
「ええ。でも出来なくなって良かったです。スオウもマサヤも酷い人間だったけど…世の中には…優しい人も沢山いました」

そうなのだ。ゲンはファイトクラブから逃げ出した後、ホテルや女の元で暮らした。誰もがゲンを受け入れてくれた。戦う事が生業だった彼は新しい世界を知ったのだ。

ゲンの瞳からポロリと涙が落ちた。
「旦那様…本当に…ごめんなさい…」
するとゲンの瞳が暗転した。頬が引き攣り唇が震え出した。彼はまた狂気の世界に戻ったのだ。

ソウタはじっとゲンを見つめるとしゃがみ込んだ。ソウタの手がゲンの首に近付いた。そしてゲンの頸の電源に触れた。長押しすれば彼は死ぬ。だが警告音の責苦から逃れられるのだ。

ソウタは復讐を誓ったものの悪になりきれなかった。ゲンを解き放つ事に決めたのだ。
「スミレ…イイよな…?」
良いと言う声が聞こえたような気がした。

ソウタは大きく頷くとゲンの電源を長押しした。ゲンの瞳がカッと見開かれると首を回し、主人を見つめ続けた。感謝しているような眼差しだった。間もなくゲンは機能停止した。

瞳を大きく見開いたまま天井を見つめていた。ガラス玉のような眼球は生気がなかった。彼は罪を犯し反省してこの世から去ったのだ。誕生してからまだ1年も経っていなかった。

ソウタはリツにコールして終わったと告げた。アリスがゲンを運び出し回収業者に引き渡す。ソウタはスミレの墓前に行く。そして空を見上げた。風が頬を撫でた。スミレだと思った。

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