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アンドロイド転生398

品川区:スオウトシキの邸宅

タケルはヒロトを見た。彼と戦うのか。自分と同じ顔と。それは嫌だ。倒したくない。だがエリカが人質だ。腹にテイザー銃を当てられている。まったく卑怯なヤクザらしい仕業だ。

こうなったらスオウを撃つか?妻の目の前で?タケルは実父を思い出す。犯罪者でボクサー崩れの父親は家族や他人に暴力を振るう男だった。そんな人間になりたくないと思って彼は育った。

どんなに残忍なヤクザでも妻の前で倒すのは嫌だ。家族を苦しめたくない。スオウを殺すと決意をしてやって来たもののタケルの人間らしい感情が冷酷にはなりきれなかった。

タケルは再度ヒロトを見た。鏡を見るようだ。まるで生き別れた兄弟のような気分になった。どうして俺と同じモデルが目の前にいるんだ?何故戦わなくてはならない?畜生!

アイツだって同じ顔の俺を倒したくはないだろう?だが、ヒロトの顔は無表情で瞳はガラス玉のようだ。何の感情も読み取れない。真意は戦う事を望んでいるのか。拒んでいるのか。

スオウは楽しそうに手を叩いた。
「ヒロトを倒したら何でも言う事を聞こう。残忍に戦ってくれたまえ」
俺に従うと…?本当に?こんなクソ野郎が守るのか?

その時、スオウの妻のミナコが叫んだ。
「あなた!やめて!」
ミナコはスオウの傍にやって来ると肩に手をかけ、激しく揺すった。
「何を馬鹿な事を言ってるの⁈」

スオウは妻を見もせず、手を払い除けた。
「ヒロト。やれ」
ヒロトは一歩前に出た。整った顔立ちは変化せず心の内は何も窺えない。

「分かりました」
ヒロトは頭を下げてスーツのジャケットを脱いだ。自分の存在意義。命令を完遂すること。機能停止になるまで相手を潰す。それだけだ。

ミナコがヒロトの前に立ちはだかった。
「あなた!ヒロトにそんな事をさせないで!」
アンドロイドであっても長い月日を共に過ごしたのだ。思い入れがあった。

スオウは鼻で笑った。
「馬鹿者。ヒロトはマシンじゃないか」
ミナコは目を見開いた。
「家族よ!18年も一緒なのよ!」

タケルはヒロトに対するミナコの愛情が心に染みた。その通りだ。家族じゃないか。アンドロイドと人間の間だって慈しむ心はあるのだ。今更ながらスオウと敵対するこの状況を憎んだ。

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