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アンドロイド転生701

白水村集落:ダイニングルーム

チアキが新宿の平家カフェで食事を提供していた頃。ホームでも村民達が夕食を囲んでいた。ルイが両親のテーブルにやって来た。
「ちょっとイイ?」

いつもは少年同士で集まって食事をしている息子が珍しく彼らの席に着いた。
「俺さ…タウンに行く事にしたから」
タカオとキリは顔を見合わせた。

キリの瞳は煌めいた。笑いを堪える。あんなに怒ってタウンに行く事を拒否していた息子がどんな風の吹き回しだろうか。思春期の子供の気持ちは不安定で分からないものだと思う。

「へぇ…。行く事にしたんだ?」
「うん」
「また気持ちが変わったりしない?」
「しねぇよ!」

タカオは腕を組み真剣な顔をした。
「よし。男に二言はないな?俺達と離れて暮らすけどいいな?大丈夫だな?」
ルイも真面目な顔で頷いた。

夫婦は顔を見合わせて頷いた。これで念願通り息子を街に送り出せるのだ。ルイはタウンで大人になっていく。そしていつか伴侶を見つけて幸せになって欲しい。それが願いだ。

ルイは父親を見た。
「で?俺らはいつタウンに行くの?」
タカオは腕を組んだまま虚空を見上げた。
「そうだなぁ…」

タカオは思案するように何度も頷いた。
「俺は…なるべく早くにと思っているが総務省次第だな。新宿のキヨシさんの連絡待ちだ」
「ソウムショウって…なに?」

タカオはチラリとルイを見た。息子は何でも疑問に思って聞きたがる。
「国のエライ機関だ。あっちは人が多いだろ?色んなことを束ねてやらなくちゃならん」

ルイは成程と頷いた。そうだよなぁ…渋谷の祭りに50万人が集まるんだもんな。村の60人とは訳が違う。そんなスゲェ所に俺は行くんだ…。そう決めたんだとつくづく思う。

キリはルイをひたと見つめた。
「なんで…行くって決めたの…?」
普段は親には口数の少ない息子だが今日は何でも話してくれそうな気がした。

ルイは顔を引き締めた。
「俺は…勉強して沢山のことを知りたい。世の中は俺の知らないことばかりなんだ。タウンはマジで凄ぇよ。でも負けたくない」

キリは微笑んだ。息子が誇らしくなった。
「うん。いいね。頑張れ。でも辛くなったらいつでも帰って来ていいんだからね」
戻る場所があることは心の支えになるものだ。

ルイは頷いた。数年前から何となく親を疎ましく感じていたけれど、やっぱり家族は有難いと思う。モネの母親の攻撃にも負けず俺の味方をしてくれたんだ。それが嬉しかった。

15歳の少年は日々が成長なのだ。恋愛と別れを経験し、彼はひとつ大人になった。そしてこの先の挑戦が彼の心をまた豊かにしてくれるだろう。学びと理解。そして実践だ。

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