見出し画像

アンドロイド転生789

2118年6月17日 午前7時
東京都港区:タカミザワ家のダイニング

アオイは骨折したモネのサポート係だ。もう3ヶ月になる。彼女はサクラコとモネの食事をする姿を見つめていたがその心は彼らを素通りして昨年末の夜について考えていた。

ホームの裏稼業。タウンの人間が非合法で得た金品を奪うこと。神の采配なのかカノミドウ家がそのターゲットとなった。アオイは仲間の後押しで96年振りに元婚約者のシュウと再会を果たした。

輪廻転生という荒唐無稽な話しを彼は受け止めて信じてくれた。やっと念願が叶ったのだ。孤独な第2の人生に意味が生まれた瞬間だった。生まれ変わってきた甲斐があるものだ。

123歳の老紳士と18歳モデルの少女アンドロイド。一見不釣り合いな2人だが、心は26歳と24歳の男女に戻っていた。死が彼らを分ちなければどんな道を歩んでいたのだろう。

すっかり老いてしまったシュウだがアオイにとっては変わらず愛しい存在だった。だから彼がどんな人生を歩んだとしても受け止めていた。たとえ結婚していようとも。

アオイが死んだ4年後にシュウは見合いして結ばれた。由緒あるカノミドウ家を存続させるためだ。2年後に息子に恵まれた。そして綿々と受け継がれ曾孫のトウマに繋がるのだ。

7歳で知り合ったトウマは今や23歳。その彼がカノミドウ家に夜襲をした時にいたのだ。アオイは驚いたがトウマも驚いた。アンドロイドが泥棒稼業。しかも曽祖父の元婚約者。

アオイの転生を信じず、泥棒稼業も非難した。曽祖父を惑わすアンドロイドだとしてアオイを責めて怒りを露わにしたのだ。その挙句にホームの存在が暴かれそうになった。

ホームを守る為に仲間のトワが犠牲となってしまった。アオイとシュウが出逢ったことでトワを失う事態になったのだ。ホームにとってもアオイにとっても悲しい痛手であった。

「ご馳走様!」
モネの声でアオイはハッと我に帰った。慌てて松葉杖をモネに渡した。彼女は器用に歩き出す。杖を使い出して3ヶ月。慣れたものだ。

足首を骨折した場合の完治は3〜4ヶ月らしい。ギブスが取れた後のモネの片脚は細くなってしまっていた。だが16歳の若さは回復が早い。すっかり体力は取り戻していた。

そう。体力だけ。精神力はまだ心許ない。初めての恋が終わってしまい、まだ心の痛みが残っているのだ。ルイからプレゼントされたネックレスを握って眠っている事がよくあった。

「行って来ます」
アオイはサクラコと執事のザイゼンに声をかけてモネと共に玄関に行く。高校まで送るのだ。モネは遠慮するがサポートをすると決めたのだ

16歳のモネにナニーは必要ないと思っている割にはアオイは過保護だった。いつでもモネの側にいたいのだ。何でも先回りをして事を進めようとする。サクラコもザイゼンも苦笑した。

モネと並んでバッグパックを背負って歩く。学校までは20分の道のりだ。18歳モデルのアオイとモネはまるで姉妹のようだが、モネの方が背が高く大人びていて年上に見えた。

アオイは目を細めてモネを見つめる。ああ。赤ちゃんだったのに。あんなに頼りなかったのにといつも思う。すっかり母心のアオイはモネが愛おしくてならなかった。

世の中のナニーアンドロイドに搭載されたマニュアルには子供に対する絶対的な愛情があるのだ。人間の心のアオイにもそのマニュアルが発動されているのである。


※アオイとシュウの再会のシーンです

※シュウがユリコと見合いをしたシーンです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?