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アンドロイド転生641

茨城県白水村集落:ダイニングルーム

ホームの全員が昼食の為に集まっていた。村長のドウガミサトシが立ち上がった。
「皆んな聞いてくれ。報告がある。昨晩の遭難した少女は無事にオペを終えたそうだ」

人々は安堵の溜息をついた。少女はルイの恋人だとすっかり皆に浸透している。
「イヴの報告ではタカオとキリが病院に到着し見舞った。ルイも元気だ」

サトシは人々を見渡した。
「もうひとつ報告がある。これから我々は村の今後について大事な議論をする」
人々は何度も頷いた。

平家の落人の子孫としての誇りはあるが、村が存続するか滅亡するかの瀬戸際に今自分達が立っている事をよく理解している。滅びを覚悟する者、回避しようとする者、傍観者など様々だ。

サトシはエリカを見やった。
「議論をまとめる役が必要だ。私はエリカを任命した。午後2時から会議を始める。エリカ。立ちたまえ。何か意見はあるか」

エリカは緊張の面持ちで立ち上がった。
「み、皆さん。宜しくお願い致します。会議には多くの方に集まって頂き、セッションしたいと思います。より良い決断が出来るように」

エリカはアンドロイドのケイを見下ろした。
「彼は私の補佐役をしてくれます」
ケイも立ち上がり微笑んだ。
「皆さん、忌憚なき意見をお願いします」

パラパラと拍手が上がった。村長の弟のケンジは苦虫を噛み潰したような顔をする。彼は滅亡派だ。タウンとは相容れないという強い意志がある。議論など煩わしいと思っていた。

リツの父親のキヨシは口元を引き締めていた。新宿に帰るのは暫く延期して、議論に参加する。彼は存続派で国民として所属しようと思っていた。ホームを滅亡させたくないのだ。

村長の締めの言葉で昼食が始まった。直ぐに楽しげな騒めきに包まれた。エリカの側にアリスがやって来た。ニコニコと嬉しそうだ。
「カッコ良かったよ。エリカ。頑張って」

エリカは照れ臭そうに頷いた。
「あ!アリス。そもそもまとめ役って何?」
「ケイに聞いたら早いよ。元大臣秘書だもん。詳しいでしょう」

ケイに尋ねると彼は微笑んだ。
「いわば【影のリーダー】だね。表立って議論を進めるわけではないけど、議論の区切りではポイントになるような”まとめ”の発言が出来てメンバーを議論しやすくする役割さ」

エリカは目を丸くした。影のリーダー?そんな大役なのか?自分に出来るだろうか?だが村長は信用したからこそ任命したのだ。彼女はやる気に溢れ、珍しくタケルの事は忘れていた。


※キヨシとケンジが衝突するシーンです


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