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アンドロイド転生783

2118年6月12日
茨城県つくば市:シンドウアキコのマンション

アキコの住まいにゲンが転がり込んで1週間が過ぎた。孤独な中年女でニュージェネレーションのアキコを堕とすのは彼には容易かった。褒めて崇めて労わって優しくすること。

アキコはすっかりゲンに溺れた。夜には快楽を与え、朝を共に迎える。ゲンはアキコの為に朝食を拵えた。彩りが良く栄養バランスは完璧だ。しかも美味である。アキコは感激した。

そして仕事に行く彼女を見送り、その後は家事をする。ラボをハッキングしてハウスキーパーのマニュアルをインストールすれば戦士のゲンも立派な家事のエキスパートだ。

ゲンはいつもアキコの望む以上に先回りして動いた。ゲンはほくそ笑む。どうだ?満足だろう?孤独だったお前を迎えてくれる相手がいるのだ。しかも温かい食事を用意して。

アキコは何度も感謝した。
「ゲン?私ね?1人で充分だと思ってたの。だから執事なんていらなかった。でも今は違う。ゲンが待っていてくれると思うとホントに嬉しい」

「私だって貴女が帰ってくるのを今か今かと待っています。そしてアキコさんの好物をお料理するのが本当に幸せですよ。貴女と出会えて私は世界一幸福なアンドロイドです」

アキコはゲンに飛びついた。ゲンも応えてしっかりと抱き締めた。側から見れば愛し合う男女だ。いや。確かに愛してた。アキコだけ。
「大好き…!ずっと側にいてね!約束ね!」

その日の晩のこと。
「へぇ…。そんな研究をしているのですか」
ゲンはアキコと共にベッドに横になり腕枕をして彼女の髪を撫でていた。

アキコは悲しそうな顔をした。
「新宿の事故は凄かったでしょ?」
とうとうアキコは社外秘を話し始めた。彼女にとってゲンは恋人以上の存在なのだ。

今から約3ヶ月前、新宿歌舞伎町のクラブでアンドロイドが乱闘した。地下で逃げ場を失った人間達は巻き込まれて命を落とした。84人もの被害者が出て世の中は大騒ぎだった。

「ああ。凄かったみたいですね」
凄かったも何もゲンもその場にいた。だが乱闘など馬鹿らしくて遠目で眺めていただけだった。そしてクラブから逃亡し、今に至る。

アキコはゲンの胸に指をくるくると這わす。
「国からね?マシンを制御しろって言われてね?何年も前から私達は必要だと思っていたんだけど、それがやっと日の目を見るのよ」

ゲンは不安そうな顔をした。
「それにしてもアンドロイドを機能不全にするとは驚きです。私は恐ろしいです」
「そうだよね…ゲンは怖いよね…」

アキコは残念な気持ちになる。自分の研究が製品になるのは嬉しいがそれがゲンにとっては脅威なのだ。アキコは勢い良くかぶりを振った。
「ゲンは優しいもの。使われる事なんてない」

ゲンはやっとアキコの研究について知れて満足だった。この日の為に今日まで尽くしてきたのだ。そうか。やはりTEラボは万一に備えてアンドロイドを制御する物を作ったのか。

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