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アンドロイド転生550

東京都葛飾区:カガミソウタの邸宅

ソウタは恋人のスミレと共に何度も万歳をしていた。ホームのリペア室の様子が立体画像になって彼らの目の前に浮かんでいた。2人は顔を見合わせ満面の笑みを浮かべた。

ミオのウィルスプログラムを削除する事が出来たのだ。データが生まれて19時間後の事だった。イヴを始め人間やマシン達が協力をして事を成し遂げた。ミオは復活したのだ。

「やっぱりイヴちゃんは天才だな!」
ホログラムのイヴが微笑む。
『いいえ。皆さんがいたから突破口が開きました。ソウタさんも有難う御座いました』

ソウタは何度も頷く。
「皆んなの力のお陰だな。なんかさぁ…ホームの団結をずっと見ててさぁ。イイなぁって。俺なんてヒッキーだからスミレしかいないし」

スミレはソウタの手に手を乗せた。
「リツさんと友達になりました。アリスさんも紹介してくれました。今度ダブルデートをしましょう。桜が綺麗ですよ。春なんですよ」

ソウタは感慨深い顔をした。
「ああ〜。そうかぁ。春かぁ」
殆ど地下に引き篭もっているソウタは季節の巡りなど気付かなかったし興味もなかった。

イヴはニッコリとした。
『ソウタさん。あなたは私と違って身体があるのです。それを活かさないといけません。陽の光を浴びて歩くのです。気持ちが良いですよ』

ソウタは黙っていた。徐に立ち上がると腰を伸ばした。節々が鳴った。その場で足踏みをする。腕を振った。その腕を天井に伸ばす。身体を左右に傾けた。ギシギシと音がした。

スミレも立ち上がり大喜びでソウタに倣った。
「ソウタ!身体を動かすと気持ちが良いでしょう?上に行きませんか?外に出ませんか?パンでも買いに行きましょう」

ソウタはゆっくりと頷いた。部屋にいる方が幸せだとずっと思っていたが、なんだか外に出たくなった。空気を吸いたくなった。
「よし。行こう。ちょっと歩いてみよう」

何年か振りで家の階段を登った。螺旋階段を3回廻って1階のフロアに着いた。ハッカーとしてだけでなく、優秀な頭脳のお陰で株の投資で資産を増やしたソウタは豪邸に住んでいた。

吹き抜けの広々としたリビングには埃が積もっていた。このフロアに誰も足を踏み入れない。埃を撒き散らしながらエントランスに向かい外に出た。朝6時半の空気は澄んでいた。

薄手のシャツ姿のソウタには3月上旬の空気はまだ冷たかった。背筋を震わせる。
「寒っ!!」
「何か羽織りますか?持ってきます」

ソウタはスミレの腕を掴んだ。
「いいよ。寒いくらいが気持ち良い。行こうぜ。パン買いに行くんだろ?どこにあんの?」
2人は笑顔で歩き出した。


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