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アンドロイド転生607

山間:斜面の下

ルイは天を見上げた。僅かな粉雪が舞っていると思ったら次第に降りが強くなってきた。吐く息が凍るようだ。冷気が体を包んだ。気持ちが焦る。早くモネを見つけなければ…!

背後を振り返って黒い人影を見た。制服姿のモネは闇夜に紛れてよく分からない。だがルイは確信した。間違いない!モネだ!叫びながら走り出した。近付くにつれ安堵した。

モネは枝を支えにヨタヨタと歩き出す。ルイは駆け寄って抱き締めた。やっと会えた…!
「モネ!モネ!」
「ル、ルイ…」

モネは崩れてしゃがみ込んだ。全身が震えている。服が濡れ、体温が下がっていた。顔が真っ青だった。ルイはレインコートを脱いでモネを包んだ。
「大丈夫か⁈」

モネは首を横に振った。
「あ、足を…足首を怪我したの…」
ルイは驚いてモネを見下ろした。モネの手にある枝を見た。哀れを誘って胸が苦しくなる。

モネが靴下を下ろした。酷く腫れている。
「折ったかも…しれないの…」
ルイは斜面を見上げる。
「登れないな…?よし。俺がおぶる」

だがルイの決意と裏腹に登る事は叶わなかった。ルイには何の技術もなく補助ベルトもない。モネは細いとは言えど、人を背負って急斜面に挑戦する事は不可能だった。2人は山道を転がった。

モネは尋常じゃない叫び声を上げた。痛めた足に更に負担を掛けてしまった。足首を押さえ顔を歪め息が荒い。涙が溢れてくる。
「モ、モネ!ご、ごめんよ!」

モネは地面に横たわった。全身がブルブルと震えており、寒い寒いと呟いた。だが徐々に身体の震えがおさまってきた。ルイは眉間に皺を寄せた。これは一体どういう事だろう…?

モネの瞳が虚になり呟き出した。
「…桜…綺麗ね…ホントね…スゴイ…」
「お、おい?モネ?どうしたんだ?」
「クレープ…美味しい…でしょ?」

ルイはモネを優しく揺すった。
「ど、どうした…?」
モネは目を瞑り、やがて反応がなくなり無表情になった。意識を失ったのだ。

ザイゼンは斜面を登り切り、茂みを分け行って今度はルイ達のいる斜面にやって来て見下ろした。高感度アイで彼らを捉える。直ぐに駆け降りた。だが足を取られ転がり落ちた。

ザイゼンは直ぐさま起き上がりルイ達の側にやって来た。頭を支えながら主人を見つめた。
「モネ様!モネ様!」
「ザイゼンさん!モネが気絶した!」

ルイは決心した。自分ではモネを助けられない。アンドロイド達に頼るしかなかった。
「家族に頼みます!助けに来てもらいます!」
「お願いします…!」

ルイはスマートリングをコールした。エリカの立体画像が宙空に浮いた。
『どうしたの?もう8時を過ぎてるよ』
「大変な事になったんだ。エリカ!頼む!」

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