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アンドロイド転生658

渋谷区恵比寿:桜並木

タケルとエマは手を繋いで夜道を歩いた。灯りが桜を照らす。可憐な花は空を覆い尽くし幻想的だ。エマは満足そうに周囲を見渡す。
「ホントに綺麗ねぇ…!」

彼女の微笑みは光り輝いていた。エマの方が遥かに綺麗だとタケルは思う。こんな幸せな気持ちで誰かと街を歩けるなんて想像もしなかった。転生して19年間。彼はずっと1人だったのだ。

「エマ!」
顔を向けるとゲンと腕を組むヒカリがいた。タケルはゲンを見て途端に不愉快になる。仲間のミオにウィルスを仕込んだアンドロイドだ。

エマは笑顔で友人に駆け寄った。
「2人も夜桜見物?」
ヒカリはエマと同じマジョリティで人間だけではなくマシンとも恋愛(肉体)関係を持つ。

ヒカリはニッコリとした。
「そう。ゲンは産まれてまだ3ヶ月なんだって。初めて桜を見たんだって。そっちも仲良さそうだね」
「うん!ラブラブ!ね?タケルさん」

エマはタケルを見上げて繋いだ手を勢い良く振り回した。天真爛漫なエマらしい仕草は可愛いがタケルの楽しい気持ちは失せてくる。ゲンにこの場から消えて欲しいと思う。

そんなタケルを見透かしたようにゲンは笑った。
「ミオはどうなりましたか?」
「ウィルスはデリートしたぞ。残念だったな」
「へぇ…。そうですか」

ヒカリは鼻で笑った。
「へ〜。ウィルスが取れたの?散々大騒ぎしたけどやれば出来るじゃん」
タケルはヒカリの物言いに腹が立ってくる。

ヒカリは次いで悔しそうな顔をした。
「どいつもこいつも私を脅したね。全く思い出すだけで腹が立つ!人の弱みを突くなんてマジで卑怯。あのイヴって女はアンタの仲間でしょ?」

イヴの画策でヒカリの画家生命が失われるところだった。ゴーストに描かせた事実を暴かれたくなければ訴えを取り下げること。ヒカリは取引に応じた。嫌疑は晴れてリツは釈放されたのだ。

タケルは呆れたような顔をする。
「そもそもオタクがリツを嵌めたんじゃないか。因果応報って知ってるだろ。だからゲン。お前も呑気に笑っている暇はないぞ」

エマはタケルの不快な気持ちを悟った。直ぐにヒカリ達に手を振ってその場を離れた。
「ゲンの事が嫌いなんでしょ?」
「はい。恨んでいます。会いたくありません」

「それでもさぁ…。あの時…タケルさんがヒカリの家に来たから私達はまた出会えたのよね」
タケルはハッとなった。そうだ。13年振りの再会だった。これもまた運命だったのか…。

気を取り直して公園に行きレストランで夕食を摂った。タケルの不快な気持ちが薄れ、喜びに包まれた。恋や愛を知るとそれ以外の事は上書きされてしまうのだろう。


※イヴの脅迫シーンです

※タケルがヒカリの家に訪れたシーンです


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