見出し画像

アンドロイド転生669

2118年3月23日 午後
白水村集落:エリカの部屋

タケルが村を出て3日目の午後。エリカはエマの家の上空のドローンから中継される映像を見ていたが、動きはなくなってしまった。警察が警備した事で野次馬が来なくなったのだ。

それでもWEB内ではエマの話題で持ちきりだった。彼女を陥れる最後の手段として、オクザワヒカリの罪をエリカは暴露した。いや、エマの名前でWEBに公開したのだ。

世界的に著名な画家であるヒカリがゴーストに描かせていたと言う情報に警察が動いた。ヒカリは事情聴取の為に連行された。それを中継したマスコミの前で彼女は叫んだ。

「ハスミエマを許さない!あんな女は友達じゃない!訴えてやる!とことんやる!」
ヒカリは美しい顔を歪め、怒りと悔しさで涙を流していた。エリカは小気味良かった。

親友のリークによって地に堕ちたヒカリに世間の同情票が集まった。反対に暴いたエマがバッシングされた。彼女のアイデンティティが取り立たされてWEBで白熱していた。

エリカは嬉しくて堪らなかった。やった…。やったのだ。タケルを奪ったエマをとことんまで追い詰めた。これでもうエマは再起不能だ。鮮やかな自分の手腕に満足だった。

残念なのはエマが家から出て来ないこと。彼女の悲嘆に暮れた顔が見たかった。どんなに心が晴れただろう。ドローンでずっと家の上空を監視していたがタケルもエマも顔を見せなかった。

エリカの内側にドローンから通知が来た。バッテリーが切れると言う。直径1㎝の超小型のため太陽光発電が使えず充電が必要なのだ。やがてドローンはエマの家の敷地内に落ちた。

エリカは立ち上がって部屋を出た。リペア室に行くと新しいドローンをひとつ掴んで直ぐに室内から出て行った。キリは特に気にも留めなかった。これはいつもの光景だからだ。

ドローンは村の人々の安全と逃亡して来たアンドロイドを保護する為に巡回用として使用している。マシン達が必要に応じてドローンを持っていく。キリもそう思い込んだのだ。

だがリョウは全て承知だ。きっと充電が切れたのだろう。新たな監視に使うのだ。エリカの執念は恐ろしい。それに自分は加担している。ハスミエマを追い詰めた。後悔していた。

エリカは建物から出て、腕を高く上げると手を離す。ドローンは彼女の目と耳となって空に消えて行った。何があってもタケルの動向を見失うわけにいかない。何度でも飛ばすつもりだ。

エリカは思い出して笑った。先程、モネから連絡が来てルイと破局した事を知った。それは嘸かし辛かろう。そしてアオイも悲しんだろう。自分の思惑通りになった。全く楽しくて堪らない。

モネはきっとアオイを離さない。だからお前はホームに帰って来るな、そう言ってやった。これで邪魔者は全て消えた事になる。ああ、早くタケルが帰ってこないかな、と思う。

エリカは自意識が芽生え、ある部分は(悪知恵)目覚ましく発達したがそれ以外のところは劣っていた。エマを潰せばタケルは自分だけを見つめてくれると信じている。あまりにも幼稚で愚鈍だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?