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アンドロイド転生606

茨城と福島の県境の麓:山道

ルイは山道で車を見つけた。ザイゼン達が乗って来たものだ。地図の赤い発光付近に自分は到着した。茂みの中に入って行く。
「ザイゼンさん!着きました!どこですか!」

ザイゼンの立体画像が宙空に浮かぶ。
『私は声帯を損傷しました。叫ぶ事が出来ません。位置をお伝えします。ルイ様から北西に向かって270m程下降した斜面におります』

ルイは山の凹凸を歩いて行く。雨が激しくて視界が悪い。周囲は闇夜だ。急下降した樹木の間を見下ろす。何とか男性の姿を捉えた。
「ザイゼンさん!」

画像のザイゼンが首を傾けたまま微笑んだ。
『ルイ様の姿が見えます。私は自力で登ります。こちらに来なくて結構です。その辺りにモネ様がいる筈です。探して下さい』 

ルイは頷いた。
「分かった!モネを探す!」
ルイは周囲を見渡す。闇に包まれ探すのは困難だが何としても見つけなくてはならない。
 
ルイとモネの距離は800m程離れており、モネは斜面の下にいた。雨の勢いが強く世界をゴーゴーとした音が包み、声を捉える事が難しかった。ルイの叫び声はモネに届かなかった。

ルイは何度も茂みを往復し、モネを探した。だがどこにもいない。切り立った淵でルイは立ち止まる。斜面を見下ろした。モネはここから滑り落ちたのだろうと見当をつけた。

ルイは慎重に山を下って行く。平地まで降り切って周囲を見渡す。モネの姿が見えない。何度も叫んだ。ルイの鼻に何かがそっと触れた。見上げると雪だった。彼は目を見開いた。

「や、やばい…」
恐れている事が起きた。益々気温が下がる。ルイは顔を歪めた。これは非常に危険な状況だ。雪山の恐ろしさは何度も大人から聞かされた。


山間:斜面の下:茂みの奥

モネは鬱蒼とした茂みの中に座り込んでいた。少しでも雨避けになると思ったが全身が冷たく濡れていた。身体の震えが止まらない。手を擦り息を吹きかける。吐く息が白かった。

ゴーゴーと雨音が世界を包んでおり、モネの耳にルイの声が届かなかった。モネは熊を恐れ叫ぶ事が出来ない。ふと気づく。茂みの間から白い物が落ちてきた。雪だった。

モネは驚愕する。これは非常にまずい状況なのでは…。顎が震えた。寒さだけではない。恐怖だ。モネは枝を支えにして立ち上がった。座っていてはならない。動け…!

モネは茂みからヨタヨタと歩み出た。暗闇に光を見た。ルイの着ているレインコートだった。モネはそれが人影だと理解した。
「ル、ルイ…?」

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