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アンドロイド転生599

東京都目黒区:ハスミエマの自宅

午後6時半。エマは身支度を整えていた。これから仕事だ。彼女は銀座のバーのピアニストだ。アンドロイドが奉仕する社会で人間が自ら演奏すると言う事はかなり高級な店なのだ。

エマのスマートリングが鳴った。相手先は友人のヒカリだった。応答する。ヒカリの立体画像が宙に浮いた。恋人のゲンも一緒に映っていた。その背後には多くの人々。賑やかな騒めき。

ヒカリは満面の笑みだ。
『エマ!遊びに来ない?』
ヒカリの画像が室内をグルリと周る。
『皆んな来てるよ!パーティーしよ〜!』

人々が手を振って笑う。どれも見知った顔で、マジョリティだ(人間の男女及びアンドロイドと肉体関係を結ぶ人)宴が酣になれば乱行パーティに発展する。いつもの事だ。

エマはネックレスを付けながら首を振った。
「これから仕事だもん」
ヒカリは笑った。
『しょっちゅうサボってるくせに!』

そう。いつもならば喜んでパーティに参加しただろう。裕福な家庭の娘のエマは仕事など道楽だった。現在、両親はイギリスに駐在している。エマは豪邸に執事と暮らしていた。

エマは真面目な顔をした。
「それにね?私、ジェネになる事にした」
ジェネとはアンドロイドのみと性行為をするアイデンティティの人間を指す。

ヒカリは眉を上げた。
『へぇ…。じゃあゲンとだけにするの?』
ゲンはアンドロイドでエマとも肉体関係がある。彼の技術は優れており、エマのお気に入りだ。

エマは苦笑する。
「ゲンともしないよ〜!私はね?今、真剣に恋をしているの。マジなの、ホント」
『エマがぁ?まさか!』

「ホントよ。好きになったの」
『え?誰?あ!この間うちに来た奴?』
「そう。タケルさん。優しいの。とっても。それにやっぱり元人間でしょ?雰囲気あるもん」

タケルの輪廻転生を心から信じているのだ。絵空事と馬鹿にしないのは何事も柔軟に受け止めるこの時代の人間の風潮だった。
「私達は真剣なの。だから誘わないで」

『はいはい。分かった。せいぜい頑張ってね』
「あ!ヒカリとは友達だからね!会おうね」
『分かった。ずっと友達ね。じゃあね』
「バイバイ」

エマはタケルの微笑みを思い浮かべた。胸が切なくなる。昨日のキスが思い出された。素敵だった。たかがキスなのにこんな気持ちは初めてだった。やっぱり私…恋してる…。

明後日の夜はバーが休みだ。タケルが昼間にやって来る。早く逢いたい。待ち遠しい。エマは鏡を見た。微笑む。ああ。私って綺麗よね?自画自賛して喜ぶが実際に彼女は美しかった。


※エマとタケルのキスシーンです


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