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アンドロイド転生508

銀座:ホテルペニンシュラ

ゲンはホテルの部屋にヒカリを招いた。数時間前にバーで彼女と知り合った。ヒカリは顔の造形が標準より遥かに上回っていた。それだけでなく自信に溢れ、鷹揚だった。好ましかった。

ゲンは濃密な時間の始まりに喜びに打ち震えていた。アンドロイドの彼にとって性的快楽というものはないが、自我が芽生えたゲンは人間と同じように何でもしてみたかった。

ヒカリは人間の男女を問わず、更にアンドロイドとも肉体関係を結ぶ性に奔放な女だった。一目見てゲンを気に入った。彼女の審美眼に適ったのだ。後はどれ程楽しませてくれるのか。

広々とした室内を見回してヒカリは満足していた。毛足の長い絨毯。高級な調度品や大きなベッド。清潔なリネン。仄かに漂う安らぐ香り。ホテルペニンシュラは自分に相応しい。

ゲンはシャンパンをグラスに注いでヒカリの背後からゆっくりと差し出した。
「どうぞ。喉を潤して下さい」
「有難う」

ヒカリは口をつけた。仄かな柑橘の香り。爽やかな喉越し。高級な味わい。これまた自分に相応しい。画家として名を馳せ、成功している彼女は自分を価値ある人間だと自負していた。

ゲンは背後からヒカリの髪を撫でた。そう。ゆっくりと…時間をかけて…。この場では雰囲気が大事なのだ。彼はWEB検索をして女性を落とす方法を学んだ。後は実践だ。

ヒカリの長い髪を束ねて頸を露わにする。ゲンはそっと口づけをした。ヒカリの口から快楽の声が漏れる。人間の皮膚は僅かな接触でも敏感に反応をするのだとゲンは知った。

背後から優しく抱き締めて頸だけではなく首や耳、頬にも顎にも唇を這わす。ヒカリは目を閉じて熱い吐息を洩らした。漸く2人は向き合った。ヒカリの瞳が欲望に潤んでいた。

ゲンはヒカリの頬を包んだ。額にそっとキスをする。そう。ゆっくりと。彼女の高まりを待て。なんて事はない。ゲンは人間とは違うのだ。欲望のままに先走る事はない。

ゲンは優しくベッドに導いた。嬉しくて堪らなかった。自然に口元が綻んだ。少し前までは人間の快楽の為に戦っていたのだ。そんな奉仕は嫌だった。これから別の提供をするのだ。

2人は見つめ合い唇を重ねた。ゲンは驚いた。人間の唇の繊細さに。柔らかさに。ゆっくりと彼女の服を剥いでゆく。ヒカリは顔の造形だけではなく肢体も均整が取れており美しい。

ヒカリが囁く。
「暗くして…」
灯りが最小限に落ちた。大きな窓からは満月の光が射す。2人の秘めやかな時間が始まった。

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