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アンドロイド転生360

新宿区歌舞伎町:クラブ夢幻

深夜12時過ぎ。クラブの地下。広々とした店内。大音響が鳴り響いていた。ステージにはDJアンドロイドが音楽を繰り出し、人々を盛り上げ、煽り、興奮させ、恍惚へと誘った。

ホールでは若い男女が激しいサウンドに狂ったように身を委ねていた。中央のリングにはポールダンサーのアンドロイド達がほぼ全裸で美しい肢体を曝け出し宙を舞っていた。

暗闇には色とりどりの光線が放射状に点滅しており時折蛍光色のミストが噴射されキラキラと降り注いだ。人々は飲み、食べ、笑い、踊り、それぞれの時間を貪欲に愉しんでいる。

ファイトクラブが催されるのは週末だけだ。アンドロイドの一本勝負。機能停止になるまで戦う。観客はそれに大金を投じ莫大な金が動いた。多くの人が暴力に魅せられた。

だが平日の今宵でも憩いを求め、若者達はやって来る。恋の相手を探すため。酒やドラッグに酔いしれるため。仲間との親密さを確かめるため。いつの時代でも人々は烏合するものだ。

VIPルームに到着したマサヤは仲間達と手を叩き合った。同志の軽いぶつかり合いをして肩を組み、指を差して笑う。マサヤは意気揚々とソファに座り酒を酌み交わした。

皆、彼と同じ裕福な家の子息だ。マサヤは親友だと思っているが実際はスオウグループの息子という利点だけで人々は群がっていた。薄々は気づいているがマサヤはそれでも幸せなのだ。

誰しもが酒やドラッグに溺れて浮かれている。マサヤの周りには一夜限りの美しい女達が猫のように擦り寄ってきた。マサヤは容姿だけは恵まれており、女に不足する事はなかった。

マサヤの隣のブースには父親の愛人のクレハが水煙草を吸っていた。ほぼ全裸に近いドレスから主張する全身のピアスとタトゥー。痛みが彼女にとってのエクスタシー。

39歳になるクレハだったが、一流のボディメンテナンスの賜物で美しいスタイルを保持していた。彼女の周囲にも人が集まっている。スオウの権力に惹かれているのだ。

クレハの息子のソラは安眠している。家にはボディガードと執事とナニー。安全だ。自分が不在でも充分に機能している。まさか大事な息子が狙われているなど想像もしなかった。

マサヤはクレハをチラリと見て口を歪めた。ナニーがいるとは言え、子供を置いて遊び耽っている愛人に嫌悪を覚えた。自分も週末でもないのに豪遊しているにも関わらず…。

結局は同じ穴の狢なのだ。夜と言う密やかな時間の中でスオウトシキの権力の元、マサヤは夢幻では王であり、クレハは女王なのだ。お互いに目礼しただけで同席する事はなかった。

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