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アンドロイド転生908

(回想)
2118年10月26日
スオウ組:事務所にて

マサヤは俄然力を取り戻した。人に物を頼むと言うことは見返りが必要なのだ。アンドロイドのゲンの契約者の権利を譲って欲しいなら親父は俺の言うことを聞くべきだ。

マサヤは胸を張った。さっきまでの神妙な様子とは打って変わって自信に溢れた姿だ。
「俺はヤクザの息子だからな。父さんと同じなんだ。取引には得がないとな」

スオウは明らかに溜息をついた。全く長男の短絡さには頭が痛い。素直な心がないものか。
「分かってる。これは取引だ。勿論、タダとは言わないさ。金だって用意している」

マサヤの心が動く。金は欲しい。いくらでも。でも金よりも何よりも…。
「マシンの戦闘の主犯だって名乗り出てよ」
それが今1番自分にとって重要だ。

スオウはまた深々と溜息をつく。
「呆れてモノが言えないな。お前が命令した姿はちゃんと動画に記録されているんだ。逃げも隠れも出来ないぞ」

マサヤは目を見開いた。動画は全てデリートした筈なのに!何故だ?スオウはニヤリとする。
「クレハが録画していたんだ」
クレハとはスオウの愛人だ。

クレハはスオウの次男のソラの母親だ。義弟の窮地にも助ける事をしなかったマサヤを恨んでいる。スオウは残念だったなと言って笑った。マサヤは顔を歪めて舌打ちをする。

スオウはマサヤをじっと見つめた。
「お前は何でも私から奪おうとする。ソラも金もスオウ組も。そして罪をなすりつけようとした。お前など…いない方がサッパリするな」

スオウの腕が持ち上がった。手には銃が握られている。マサヤの額に狙いを定めた。マサヤの顔が恐怖に引き攣り、唇が震えた。
「と、父さん…」

スオウがトリガーを引いた。マサヤの横をすり抜けて壁に穴を開けた。スオウは笑う。
「おっと。失敗したな。腕が鈍ったかな。まぁ…球はあと5発ある。当たるだろう」

マサヤはガタガタと震え出した。まさか撃つとは思わなかった。父親は何だかんだ言っても自分に甘いとタカを括っていたのだ。
「息子を…殺すのか…?」

スオウはニヤリとする。
「私には息子がいるからな。1人いれば充分だ」
スオウはまたトリガーを弾く。また壁に穴を開けた。スオウは舌打ちをする。

マサヤは父親の本気度を知った。即座にしゃがみ込んで土下座した。
「分かった!ご、ごめんよ!許してくれよ!」
「謝罪とは丁寧に言うものだ」

マサヤはハッとなって顔を上げる。父親の冷酷な瞳と目が合って床に額を擦り付けた。
「も、申し訳御座いませんでした。ゆ、許して下さい。サインします」

マサヤは譲渡契約書にサインした。見返りは今晩の夕食代だった。本当はスオウはかなりの額を払うつもりでいた。だがマサヤは欲に駆られて大金を失った。そう。そして父親の心も。

マサヤは自分の首を絞めたのだ。項垂れて去って行く。哀れな男の後ろ姿だった。人は自分の見合う範囲の中で動けば良い。誰もが多くを求めるから失敗するのだ。

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