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アンドロイド転生452

青海埠頭

クラブ夢幻では痛ましい事故が起きた。何十もの黒いカバーで包まれた遺体が並ぶ。警察や救助隊の他、マスコミや野次馬で多くの人が集まっていた。これは社会問題になるだろう。

アオイは画像を見つめ、タケルに顔を戻す。
「ルーク達とマサヤさんのマシンのバトルに巻き込まれて死んだのよ。82人だって。これからもっと増えるかもしれない…」

エリカが不敵に笑った。
「こんなの自業自得でしょ?ミオが何度も帰れって言ったのに興味本位で残ったんだから」
「そうだけど…遺族はどう思う?」

エリカが眉根を寄せる。
「遺族?」
「死んだ人達には家族がいるでしょう?悲しい思いをする人が沢山いるのよ?」

アオイはタケルの両腕を掴んだ。
「あなたがトワが死んで悲しいように、この人達の家族の心が痛むんだよ?私達が始めた事でこんな大事になっちゃった!」

アオイは彼に詰め寄り必死になった。
「タケル!タケルは前世でお母さんと妹を失った。辛かったでしょ?気持ちが分かるでしょ?ソラ君にそんな思いをさせてイイの?ねぇ?」

タケルの顔が強張った。怒りに瞳が燃える。
「俺の家族を引き合いに出すな」
エリカが立ち上がった。
「そうよ!アオイ!あんた何様?」

アオイは怯まなかった。
「いいえ!出す!あなたが殺人なんてしたらお母さんは喜ばない!あなたは復讐をする為に生まれ変わったんじゃない!幸せになる為よ!」
 
タケルの表情に迷いが見てとれた。
「う、煩い」
エリカがアオイの胸を突いた。
「邪魔!オマエは邪魔!」

アオイはよろけたもののエリカを無視した。
「私がスオウさんと交渉する。上手く纏める。だからやめて。お願い。悲しむ人をこれ以上増やさないで。争いは何も生まない!」

タケルは顔を上げて夢幻の画像を見つめた。泣き、項垂れる人々。もう2度と動かない身体。未来ある若者達の犠牲。あまりの惨劇に胸がざわつく。俺達が…始めたこと…。俺達が…。

タケルの表情が険しくなった。エリカがタケルの腕を掴んだ。彼の顔を窺い見た。
「タケル?どうしたの?」
タケルの心が揺れていた。それが見てとれた。

エリカは振り返ってアオイを睨んだ。
「アンタが余計な事を言うから!タケルを迷わせるから!このクソ女!」
アオイに対して更に憎しみが増した。

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