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アンドロイド転生432

イタリア:ジョゼフ・ルチアーノの邸宅

ジョゼフは両手を組み、満足気に微笑んでいた。爆弾取引の契約は残すところ仲介人のスオウ組の署名だけだ。ジョゼフの喜びとは裏腹に弟のベルナルドは不服そうだった。

「兄貴。なんでサインしたんだ?」
「取引としては悪くない。ワン兄弟なら良い顧客になるだろう」
「そりゃ?中国とイイ関係になるならな?」

息子のアントニオも鼻を鳴らした。
「アジアなんて信用が出来るのか?」
ジョゼフはニヤリとした。
「アメリカよりはイイかもしれんぞ?」

ジョゼフは一転して顔を顰めた。
「あそこはヨーロッパを見下しているからな。いつ裏切るとも限らん。水面下で中国を味方につけるのは賢いと思わんか」

ベルナルドは顎を擦った。
「まぁな。中国を味方につけるって事は、アジア全土も手にするって事だからな…」
アントニオも成程と頷いた。

ジョゼフは鼻で笑った。
「ワン兄弟だって、うちと密になればヨーロッパを手中に収めると踏んで買い手になったんだろう。つまりお互いに一挙両得って事だ」

ジョゼフは窓の外を見た。広々とした開口部から春の風がそよいでいる。陽がすっかり落ち、夕闇が包んでいた。アライブが連絡してきてから随分と時間が経ったのだなと思った。

ジョゼフは執事アンドロイドに顔を向けた。
「アメリアはどうしている?」
執事は微笑んだ。
「33分前にご自宅に到着致しました」

ジョゼフは安堵する。
「アメリアにコールしろ」
マフィアのトップでも子煩悩な父親なのだ。愛しい娘に会いたくなった。

直ぐに宙空に美しい顔が浮かんだ。
「ハーイ!パパ!どうしたの?」
ジョゼフは目を細めた。
「今日は何か変わった事はなかったか?」

アメリアは目を見開いた。
「あのね!エアキックボードが飛んできて花屋のガラス窓を突き破ったの!もう少しで当たるところだった!怖かった!」

ジョゼフはアライブがボードをハッキングして操作した事を知っている。思い出すだけで腹が煮えくり返る。娘を人質にした事は断じて許さない。この落とし前はきっちりとつける。

ジョゼフはアメリアを労り、通話を切った。執事にブランデーを出せと命令をする。
「分かりました」
漸く旨い酒が飲めそうだと彼は笑った。

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