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アンドロイド転生961

2119年3月11日 夜
都内某所

トウマはホウジョウ家を出ると時間を確認した。午後10時半だ。道端でスマートリングを起動する。恋人のヒマリへコールした。直ぐにヒマリの立体画像が宙に浮いた。

「今からそっちに行きたい。話があるんだ」
『え?どうしたの?』
「ごめんな。どうしても話がしたいんだ」
『うん…分かった。待ってる』

トウマはタクシーを呼び乗り込んだ。約30分後にヒマリの家に到着し、彼女を表に呼び出す。3月中旬の夜はまだ寒い。特に今日は冷えていた。悪いなと思いつつ、止められなかった。

ヒマリが外に出て来た。トウマは頭を下げる。
「ごめんな。遅い時間に。寒いのに」
ヒマリは笑っているがいつもの弾けるような笑みではない。何事かと身構えている様子だ。

「うん。大丈夫。話って…なに?」
「別れて欲しいんだ」
「…何で?」
「好きだけど…愛してない…」

ヒマリはふぅと溜息をついた。
「そっか。好きだけじゃダメなのかな?いつか愛に変わらないのかな?」
「俺は…女の人を愛せないんだ」

ヒマリは目を丸くした。
「え?」
「それが漸く分かったんだ」
「え?え?もう一回言って」

「俺は…男が好きなんだ」
「じゃ…じゃあ…なんで私と付き合ったの?」
「ヒマリは明るくて元気で良いなって思った」 
ヒマリはそうでしょ?と言いたげな顔をする。 

「けど…分かったんだ。ヒマリの事は好きだ。でも愛とか恋じゃないんだ。違うんだ」
「まさか…愛してる人がいるとか?」
「まだ愛情ではないけれど…頭から離れない」

ヒマリは上目遣いになる。
「もしかして…シオン君が…好きなの…?私を好きって言うのとは…違った感情なの…?」
「うん」

ヒマリは今度は大きく溜息をついた。
「そっかぁ…。そうなんだぁ…。昨日さ?ギャラリーでシオン君の絵を見たでしょ?」
正確にはシオンを描いたトウマの絵だ。

ヒマリは遠い目をした。
「なんかね…愛を感じたの。私だって絵を描くんだもん。モデルに対しての想いくらい分かるよ。いや…愛と言うよりは…恋って感じかな」

「そっか…絵から漏れてたか…」
「うん。ダダ漏れ。分かった。別れよう」
トウマは丁寧に頭を下げた。
「ごめん。ごめんなさい」

ヒマリは笑った。
「いいよぉ。これがさ?別の女を好きって言われたらムカつくけどシオン君ならいいや!」
「え…なんで…」

「私ね?感じてたの。シオン君は…トウマのことを好きだろうな…って。それに…そうだなぁ…。ライバルじゃないって思うのかな…。同じ位置にいないって言うか…良い子だし…天使みたいだもんね!」

その後もヒマリは喋り続けた。そしていつもの向日葵のような元気な笑顔を見せた。トウマは好きだなと思う。だがそれは友情なのだ。幸せになって欲しいが幸せにしたいとは思わないのだ。

ヒマリが家に入るのを見届けると、トウマは満足気に歩き出した。心が晴れていた。シオンも1日でも早く傷が癒えて欲しいと思った。その為ならどんな事でもすると誓った。

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