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アンドロイド転生397

品川区:スオウトシキの邸宅

スオウは温室の前で捕らわれているエリカを眺めて、タケルに顔を移すとさも楽しそうに笑った。
「おやおや。さっきまでの威勢の良さはどうした?彼女が人質は誤算だったな」

スオウはタケルの手の内の銃を見つめた。
「さて?私を撃つか?それとも舎弟を撃つか?いやいや。さっきみたいに風の如く駆け抜けるか?どうやって彼女を救う?」

エリカを救う方法…。タケルは銃を見て、エリカの背後にいる男を見た。敵の狙える場所は顔しかない。撃てば確実に死ぬ。だがスオウと息子以外は命を奪いたくない。俺は殺人鬼じゃない。

では、倒すか?男と自分の距離を測った。温室までは離れている。俺が敵に到達するのが早いか?それとも奴がテイザー銃を撃つのが早いか?銃はエリカの腹に押し当てられている。

奴が先に撃ったとして、エリカの全身に電気が流れても僅かな時間なら耐えられるだろうか?警備員達は放電されてもなかなか屈しなかった。エリカも…?いや、そんな危険は犯せない。

タケルはエリカを見つめた。敵に襲われて髪を失い、顔は黒く焼けている。ボロボロだ。俺に弱みなどないと言ったものの、やはりあったのだと思う。家族を失うわけにいかない。

スオウはニンマリとした。瞳が輝いている。
「ところで、私はね。戦いが好きなんだ。見ているだけで血湧き肉が躍る。ファイトクラブを経営していてね?そりゃあ楽しいんだ」

タケルは鼻に皺を寄せた。
「ああ。知ってるよ。クソだ」
まったく不愉快極まりなかった。残酷な人間はいつの時代もあるものだと実感する。

スオウはテーブルに人差し指を打ちつけて叩く。自分の言葉に酔いしれているようだ。
「本当は人間同士の戦いを見たいんだが、それは叶わないからな。マシンで我慢してる」
「ふん、クソ野郎め」

スオウは目を見開くと何か素晴らしいアイデアが浮かんだような顔をした。
「私は楽しみを思いついてしまってな。で?どうだろう?ヒロトと戦ってみないか」
「は?」

スオウは生き生きとしていた。
「彼は執事だけどなかなかやると思うんだ。あらゆる戦術が出来るんだよ。その技を使わないと勿体無いと思わないか?私は同じ顔のどちらかがやられるかを見たい」

タケルは益々眉間に皺を寄せる。スオウの趣向に嫌悪を感じた。
「とことんゲス野郎だな」
スオウは高らかに笑った。
「なんとでも言え」

月明かりのテラス。スオウの傍にアンドロイドが佇んでいた。タケルと瓜二つ。同じモデルだ。ヒロトは執事であったがファイトクラブ仕様の戦術をインストールされていた。

タケルは溜息をついた。ヒロトはスオウの命令に従うだろう。つまりやらなければやられると言う事だ。俺は…自分の為にも、エリカの為にも望まない戦いをせねばならない。畜生…!

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