見出し画像

アンドロイド転生500

新宿:平家カフェ 正午過ぎ

店主のキヨシはコーヒーを淹れていた。湯気が立ち上り、芳ばしい香りが漂う。妻のマユミはケーキを切り分けていた。表面が黒く焦げたバスク風チーズケーキだ。

2人の息子で29歳のリツはキッチンでオムライスを作り上げた。艶やかに光る半熟卵を乗せたところでスマートリングが着信を知らせた。調理中は邪魔なので宙空に浮かせている。

相手先はメロディで分かる。恋人でアンドロイドのアリスだ。通話をオンにして応答した。
「もしもし。ちょっと待ってくれ。折り返す」
『うん』

リツは食事をテーブルに運んだ。
「ごゆっくりどうぞ」
客は目を輝かせた。
「有難う」

リツは微笑んだ。自慢のオムライス。いや、どの食事も自信を持って提供出来る。リツは周囲を見渡した。昼時の店内は賑わっていた。人間自らが営むカフェは根強いファンがいる。

この時間は多忙である事を知っているアリスが連絡をしてくる事は滅多にない。余程急用なのだろうとリツは思った。母親のマユミに声を掛けて裏口の扉から外に出た。

スマートリングを起動する。直ぐにアリスの立体画像が宙空に浮いた。
『リツ、ごめんね。忙しい時間に。あ、あのね。大変な事が起きたの…!』

リツは眉根を寄せた。
「どうしたんだ?」
アリスは叫んだ。
『ソウタさんに連絡を取って欲しいの!』

アリスの説明はこうだ。ミオのメモリにウィルスプログラムが再度落とされカウントダウンをしているらしい。アリスはウィルスを仕込んだアンドロイドのゲンを探したい。

ハッカーのカガミソウタならば、行方をくらませたゲンを探し出す事が出来るかもしれない。
『リツとソウタさんは友達になったんでしょう?お願い!リツから頼んで。助けて!』

「わかった。今すぐに連絡を取る」
アリスは泣き出した。
『ミオは…大人の身体になったけど、私の大事な妹なの。何とかしてあげたいの』

リツは何度も頷いた。
「俺だって同じ気持ちだ。じゃあソウタさんに連絡するからな。後でな」
『うん…うん』

リツはアリスとの通話を切ると、ソウタにコールした。だが応答しない。
『ソウタさん…出てくれ…!』
リツの眉間に皺が寄った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?