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アンドロイド転生695

白水村:カナタの部屋

「俺は…行きたい…」
ルイの幼馴染のカナタは呟いた。
「え!マジかよ?」
「だって…タウンってスゲェじゃん」

カナタにとって街はたった1度きりの衝撃的な経験だった。ルイに誘われ桜祭りの渋谷に訪れた。50万人の人出だった。60人の村民の中で暮らしている彼には驚くべき事だった。

屋台では見るのも食べるのも初めての物ばかり。しかも美味だ。心躍る音楽と行進。空には巨大な鯨と天使や人魚達。あんなに多くの人間があんなに楽しい所で暮らしているのだ。

カナタはまた行きたくて堪らなかった。
「なぁ!ルイも行こうぜ」
カナタの両親は当初は滅亡派だったが方向転換して存続派になった。息子の将来を案じたのだ。

「なぁ!ヤマトもタウンに行きたいんだぜ?でもダメなんだぜ?俺らはチャンスじゃんか」
親友のヤマトの両親は滅亡派だ。その結果、彼は村で一生を終えるのだ。

ルイは不服だった。まさかカナタに説得されるとは思わなかった。ルイは溜息をつく。カナタは甘いんだ。タウンの奴らなんて俺らの事を嫌がるんだ。分かってねぇよ。

ルイはカナタを見つめた。
「タウンの奴らは皆んな目が黒いんだぜ?お前は色が青いんだぜ?俺は銀目だ。そーゆーのをキモいって言うんだってよ」

「そーゆーのを被害妄想って言うんだぜ?」
カナタは笑った。ルイの不満などどこ吹く風だった。ルイは呆れた。以前はタウンに対して怒っていたくせにと思う。

「クソババァ(モネの母親)は俺の色が嫌だってハッキリ言ったぜ?お前は平気なのかよ?」
「1人のババァが嫌だって言ってるだけだ。100万人は好きって言うかもじゃん?」

カナタは宙空を見つめた。楽しげに笑う。青い瞳がキラキラと煌めいた。
「俺はよぉ。学校ってとこに行ってみたい」
15歳の少年らしい発言だった。

カナタは夢を描く。学校には部活というものがあるらしい。参加したい。それから学校の帰りにショッピングモールに行ったりするんだ。あらゆる物が手に入るらしい。

渋谷の桜祭りの時にエリカに連れられて少しの時間だけショッピングモールに立ち寄った。広い店内には多くの店があり、ルイはモネにネックレスを買っていた。スゲェと思った。

自分の好きな物が何でもあって何でも選べるんだ。ルイの親父が時々タウンに行ってケースいっぱいに色んな物を持って帰って来るけど、そうじゃない。自分で店に行ってみたい。

カナタはルイの背を笑いながら軽く叩いた。
「タウンに行って嫌になったら帰ってくりゃイイじゃん。まずはよ?やってみないと分かんねぇだろ?な?行こうぜ。な?」

カナタにとって、あの桜祭りの日の出来事は夢のようだった。それが実現する場所に行けるのだ。こんな恵まれている事はない。そうだよ!やってみるんだよ!俺らは街で暮らせるんだ!


※桜祭りのシーンです


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