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アンドロイド転生760

東京都港区赤坂:高級ホテルの一室

アンドロイドのゲンはニヤリと笑った。TEラボの研究員と知り合った。タイミング良く相手はアンドロイドと肉体関係を結ぶニュージェネレーションと言う類の人間だった。

これならば簡単に落とせるだろう。夜の相手は得意だ。そして話術も。褒めて崇めて優しくすれば大抵は上手くいく。あとは否定しないこと。共感すること。どれもこれも簡単だ。

ゲンの以前の恋人はオクザワヒカリと言って、著名な画家だが詐欺を働き逮捕された。ゲンにとってヒカリは用済みになった。直ぐに彼女の家を出た。それから放浪である。

とは言え、資産家の元主人からかなりの額の資金を強奪したゲンは優雅にホテル住まいだった。毎日気儘に暮らしている。主人の拘束から逃れ自由に生きること。それが彼の望みだったのだ。

ゲンはファイトクラブの戦士だった。敵を倒す。それが存在意義。やらなければやられるというギリギリの暮らし。いつしか自意識が芽生え、自分の役割に疑問を持った。

そして同じ日に生まれた同タイプの女性アンドロイドを妹だと思うようになった。だが彼女は殺された。ゲンはその相手(ミオ)に報復をした。ウィルスプログラムを仕込んだのだ。

後にウィルスが発動された事を通知機能で知った。警告音という地獄がミオを襲う。そしていつか恒常機能に異常を来たすだろう。ゲンは満足だった。妹のレイラの仇を討ったのだ。

課題をクリアしても彼は抜かりない。今後の事も備えるのだ。ゲンはいつもWEB内を探っていた。自分にとって有益な情報を見つけるのだ。そして掲示板である会話に惹きつけられた。

歌舞伎町の事件についての話題だった。
>アンドロイドの暴走を止められないの?
>暴走!止めるよ!私は研究者だよ!
>TEラボだな?

その短い会話には多くの事が語られていた。どうやらアンドロイドを制御出来る物を何やら研究しているらしい。直ぐさま発言者のアクセスコードを調べ、たちまち個人を特定した。

TEラボの研究員。シンドウアキコ。45歳。独身。アンドロイドと肉体関係を結ぶ女。役所をハッキングして彼女の顔を見た。美の基準から逸脱していたが美醜など関係ない。

彼女と親しくなろう。優しくすれば落ちるだろう。ゲンには自信があった。まず知り合う手始めとして…そうだ。元主人がアキコに似ていると言うのはどうだろう?

主人は優しくて思い遣りがあったと言えば親しみが湧くに違いない。直ぐさまゲンはアキコと似た女性の画像を作り出した。そしてマッチングサイトに自分を潜り込ませ、アキコに近付いた。

ゲンは話術が得意だった。スマートで品が良くて相手を否定しない。おどけて笑い、共感する。元主人の想い出話になるとしんみりとなる。アキコも同調して涙を溢した。大成功だ。

すっかりアキコは自分を信頼し、最終的に3日後の週末に1泊2日で新潟県の酒蔵所巡りに出掛ける約束をした。ゲンは勝利を確信した。必ず落とす。あとはその日を待つだけだ。

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