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アンドロイド転生696

カナタの部屋

ルイの心にカナタの言葉が浸透した。やってみないと分からない…。確かにそうだ。カナタが言うように学校に行く。部活をする。ショッピングもする。街に行けば色んな事が出来るのだ。

そ、そして…モネ…モネとまた会えるかも。ルイは顔を顰めて直ぐに頭を振った。いや!モネとは終わったんだ。俺がそう決めたんだ。クソババァ(モネの母親)に負けたんだ。

でも本当は…見返したい。学校ってとこに行ってみたい。実はルイは勉強が好きだった。ホームでは15歳迄と決まっており、夏には誕生日を迎える。間もなく終わってしまうがもっと学びたかった。

実際のところホームの人々は知能指数が高いのだ。遺伝子の偏りでメラニン色素に異変を来したが、頭脳にも影響があったのだ。だが村ではそれを発揮する機会が少なかった。

本当はルイだってタウンに興味も憧れもあるのだ。たった6回だけ都会に訪れたが、行く度に新しい発見があり暮らしぶりの違いをまざまざと知った。もっと深く知りたくなった。

カナタはルイの背に身を乗せた。はしゃぐようにして肩に腕を回した。
「女の子が沢山いるんだぞ?なぁ!どうする?」
「そんなのどうでもイイ」

どうでも良いが、何かに勝ちたい。
「カナタはタウンに行って見返したいか?」
カナタは目を丸くした。
「え?全然」

ルイは呆気に取られた。なんだ?負けるものか!とか…やってやる!とか…ないのか?
「じゃあ、学校に行って部活してモールで遊んで女の子と友達になれればそれでイイんだ?」

カナタは笑い出した。
「他に何があるんだよ?」
ルイは苦笑しながらカナタの肩を叩いた。
「はいはい。お前は気楽だな」

カナタはさも可笑しそうに吹き出した。
「お前こそ、深刻に考えるなよ。大袈裟にし過ぎなんだよ。もっと気楽になれよ。村なんてダサいとこ出てよ?楽しもうぜ!な?」

楽しむ…。確かにタウンは本当に楽しい。夢の国のようだ。もし自分が最初から街で生まれた子供だったら…と何度も想像し、そうだったら良かったのにと何度も思った。

カナタは真面目な顔をした。
「運命の女神って知ってるだろ。レオナルド・ダ・ヴィンチが残した言葉だ」
「ああ。あれだろ」

ルイは頷いた。神カイロスには前髪しかなく、後頭部には髪がない。だから追いかけて行って捕まえることは出来ない。向かって来た時に掴まないと一瞬で目の前を通り過ぎるのだ。

カナタは伺うようにルイを見つめた。
「お前はチャンスをボーッと眺めてるだけか?それでイイのか?俺は嫌だね。こんな何もない村でジジィになるなんて吐き気がする」

ルイだってそう思っている。俺はもっと色ん事がしたい。見返したい。カッコイイ大人になりたい。それがタウンで叶うのならば…。その可能性を広げたい。少年の心が動いた。

ルイは何度も頷いた。
「そうだな…よし。行くか」
カナタはパッと花が咲いたような顔をした。こうしてまた運命の分岐が作られたのだ。

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