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アンドロイド転生878

2118年9月13日 午後
(訪問73日目)
ユリエ(母親)の視点

ピアノの調律にやって来た調律師のミア。新人らしいがその出来栄えに娘は満足のようだ。だがユリエは不安でならなかった。ミアがリョウを奪い取るような気がするのだ。

中庭でお茶を囲みながらユリエはチラチラとミアを見る。次にエマを見て自慢げに微笑んだ。
「リョウさんとの付き合いは…もう10年になるかしらね?ね?エマちゃん?そうよね?」

実際にはまだ数ヶ月の知り合いだが母親は学生時代の先輩と後輩の仲だと言う嘘を信じている。そしてエマとリョウが結ばれて欲しいと願っている。何たってエマの救世主なのだから。

これはミアに対する牽制なのだ。娘との仲を邪魔するなとミアに訴えている。そんな母親の想いなどどこ吹く風のエマ。まったく。心配じゃないの?リョウを奪われるかもしれないのよ。

間もなくしてリョウが腰を上げた。
「そろそろ帰ります。ご馳走様でした」
ミアも頭を下げた。
「失礼します」

ユリエが立ち上がると何とエマも立つ。リョウ達に付いて行く。娘がリョウを見送るなんて初めての事だった。ユリエは驚いていた。別れの挨拶をして2人は去って行った。

「エマちゃん。あの2人…どんな関係かしら」
「さあね」
「心配じゃないの?」
「なんで?」

ユリエは眉間に皺を寄せた。
「だって、リョウさんはエマちゃんの彼氏でしょ?結婚するんでしょ?」
ユリエの思い込みは激しかった。

エマは目を丸くした。
「はぁ⁈なんで結婚するのよ」
「だってあなたを救ってくれたのよ」
「ママ、ちょっとおかしいんじゃない?」

おかしいと言われてユリエは癪に触った。
「だって100日間もうちに通うんでしょ?エマちゃんに会う為にでしょ?」
「祈祷師でパワーを得たいだけよ」

「そ、そうだけど…」
リョウは祈祷師だと言う事になっているのだ。
「それでもあなた達お似合いよ!」
「やめてよ。あんな平凡な男」

ユリエは目を丸くする。疑問に思って唇を舐めた。まさか…まさか…娘はまだ変な性癖なのか?アンドロイドが好きなのか?
「エマは…誰が…好きなの?」

エマは当然のような顔をした。
「私はタケルさんが好きよ」
「マシンじゃないの!」
「だから何?」

ユリエはショックだった。とうに別れたアンドロイドの事を今だに想っていたのか。リョウと結ばれて欲しいと願っていたのにがっかりだ。
「人間は人間と結ばれるものよ…!」

エマは明らかに不愉快そうな顔をしている。話していられないという様子で歩き出した。
「煩いなぁ。ほっておいて」
「放っておけません!」

ユリエが娘の腕を掴むとエマは睨んだ。
「煩い!ママとパパが…あんた達が…私とタケルさんの仲を壊したんじゃないの!離して!」
エマは腕を振り払うと走って行ってしまった。

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