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アンドロイド転生567

渋谷区フェスの会場:休憩所

6人の少年少女とエリカが人混みに消えたのをアンドロイドのアリスは見つめていた。表情には不安感が現れ、瞳は悲しげだった。
「大人達はどうするかな…。怒るかな」

リツは気難しい顔をしていた。
「うん…。ホームとタウンには確執があるからな。でも…俺は…ホントはルイ達を応援したいよ。好きな気持ちって止められないだろ」

アリスを愛しているリツにとって、制約に反発したい気持ちがよく分かる。最近の世の中の風潮はアンドロイドとの恋愛を認めてはいるものの、反対する者も少なからずいるのだ。

リツはスマートリングを起動した。父親にコールする。キヨシの立体画像が目前に浮いた。
「夕方頃にホームの子達を家に連れて行く。エリカが連れ出したんだ。大人に内緒で」

キヨシは苦笑した。
「フェスに来たのか」
キヨシは息子達が桜祭りに行った事を知っている。デートをして来いと送り出したのだ。

「そう。バッタリ会ったんだよ。ルイがいてさ。タウンの女の子と付き合っている」
キヨシは白い歯を見せた。
「おお!ルイはやるなぁ!イイぞ」

リツは困ったように笑った。
「父さんは呑気だなぁ。俺の立場としては見逃せないからさ。連れて行く事にした」
「よし。旨いメシを用意しておく!」

リツは電話を切った後、休憩所の簡易ベッドで横になっているソウタの元に行った。
「体調はどうですか。大丈夫ですか」
ソウタの表情は柔らかかった。

ソウタの恋人のスミレがリツを見上げた。
「ご心配をお掛けしました。先程4度目の酔い止め薬を飲みました。今は安定しています」
「そうか。良かった」

ソウタは起き上がって人の波を見つめた。
「ごめんな。リツ。アリス。せっかくの日なのによぉ。俺さぁ。ヒッキーだからさぁ。人がイッパイいてよ〜。ビビった。ダメだなぁ…情けないよ」

リツは首を横に振った。
「こんなに大勢いたら誰だって気分が悪くなります。今度はもっと少ない所で会いましょう」
「え!また会ってくれるの?いいの?」

リツもアリスも微笑む。
「勿論です。楽しみにしています」
スミレはソウタの背に手を当てた。
「今日は帰りましょう」

ソウタは立ち上がった。
「うん。リツ。アリス。今日は帰るな。今度は大丈夫だからな。散歩で練習しておくな」
4人は手を振って笑顔で別れた。

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