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アンドロイド転生574

エマの住まい

エマの吐息を首筋に感じる。首に回された腕の重みを感じる。身体に密着される女性の柔らかな存在を感じる。どれもが幸せで温かな気持ちになった。そうか。こんなにも癒されるものなのか。

震災で突然自分の命と家族を失った。あろう事か60年後の未来に生まれ変わった。何の因果かアンドロイドになってしまった。未知の世界で不安だった。当初は家族を想って涙した。

美容院に派遣され、生き甲斐を見出した。契約期間が満了するとラボから逃げ出し新しい家族に恵まれた。人間とアンドロイド。ホームと言う少数民族の集落が俺の家。敬意し尊重された。

幸せだったし、それで良いと思っていた。だが今、人と触れ合い抱き締め合って分かったのだ。ずっと寂しかった事に。
「タケルさん…好き。ホントよ。好き」

エマがタケルの瞳を見つめた。タケルも見つめ返した。胸がときめいた。この気持ちは何なのか。タケルは言い聞かす。俺はアンドロイドだぞ?人間に特別な感情など生まれない筈だ。

だがエマの顔を見ていると心が安らぐのだ。笑って欲しいと思うのだ。エマの性格が好ましかった。ハキハキとしており、性に奔放でありながらも嫌らしさを感じさせない。

エマの顔が近付いて来た。こ、これは…。まさか…。性的な興味がない筈なのに、唇を見つめると胸が高鳴った。自然にタケルはエマの頬を包んだ。目を閉じると2人の唇が重なった。

柔らかな感触にタケルは喜びに包まれた。唇が離れると2人は溜息をついた。タケルはエマの顔を見つめた。彼女の瞳がキラキラと潤む。なんて美しいのだろう。タケルの表情が自然に和らぐ。

「タケルさんも、私のこと…好き?」
そうか。俺はエマの事が好きなんだ。綺麗な顔も明るい性格も何もかもが好きなんだ。
「好きです」

エマは満面の笑顔を見せた。口が喜びに開いた。白い歯が輝いた。
「わぁ…嬉しいなぁ…。やっと念願が叶った。覚えてるでしょ?バレンタインデー」

覚えている。13年前の2月14日。16歳のエマに告白されたのだ。その頃からニュージェネレーションというアンドロイドと恋をする人間が現れた。世間では先進的な若者だった。

恋心は嬉しかったがエマは妹のミチルによく似ており、当時は異性とは思えなかった。だが今は違う。家族のような親しみはなくなった。エマを1人の女性として見ている。

「私の初恋だもの。タケルさんは本当に素敵だった。今も昔と全然変わらない。カッコ良くて優しいの。だからまた好きになっちゃった」
俺も…好きだ。大好きだ。エマを抱き締めた。



※エマに告白されたシーンです


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