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アンドロイド転生864

2118年8月28日 夜
イギリス某所:レストラン

「リョウって恋人はいないの?」
ミアの言葉にリョウの気管にワインが入ってしまった。何度も咳き込んだ。漸く落ち着くと首を振った。生まれて35年間。出来た事がない。

「い、いないよ…」
「好きな人も?」
リョウは黙り込んだ。片想いの相手。サキ…。10年以上だ。だが想いは叶わなかった。

「いたけど…ダメだった。彼氏がいるんだ」
彼氏はアンドロイドのケイだ。サキは人間に恋愛感情を持たないらしい。今頃東京のどこかでケイと2人で暮らしているのだろう。

ミアは小首を傾げた。
「好きな人は…毎日…通っている人?」
「違う。その人とはそんな関係じゃない」
「ふーん」

ミアはワインを飲んだ。
「私はね…振られたの。3年も付き合っていたの。でも他に好きな人が出来たんだって。その人を追いかけてスイスに行っちゃった」

ミアの両親から彼女が失恋した事は聞いていた。3年も付き合っていたのに別れたならきっと心の傷は深いだろう。こんなに綺麗なミアでも振られる事はあるんだなとリョウは思う。

リョウは頷いた。
「人の気持ちは単純じゃないからね」
彼の言葉遣いはすっかり砕けていた。
「うん。そうだね」

ミアはポッカリと口を開けた。
「あ!明日さ?遊園地に行かない?」
「え!」
「たまには子供に戻って遊ぼうよ」

リョウは恥ずかしそうな顔をした。
「お、俺さ…遊園地って行ったことがないんだ」
「あ…そうか」
「ずっと山で暮らしていたからさ」

ミアは興味津々な顔をした。
「ね?また山の暮らしのことを教えて」
ミアには自分は平家の子孫で、たった60人の村人とアンドロイドが家族だと伝えていた。

特に話す事などない平凡な暮らしだったが、ミアは喜んだ。リョウの出自を不審に思うどころか、山奥の集落での生活を皇族の信念だと言って多いに賛同したのだ。

「ミア?」
誰かが声を掛けてきた。東洋人の女性2人だった。ミアは笑顔になった。リョウを振り返る。
「友達なの。日本人留学生」

2人は昨年留学を終えたものの日本には帰らずにイギリスで就職をしたと言う。4人で席を囲むことになった。リョウはしどろもどろになる。3対1だと思うと緊張が極限だ。

3人の女性はリョウの慌てぶりなどお構いなしで楽しそうに話しを始めた。その場が花が咲いたように華やかになる。時折リョウに話を振るが女性達は優しくて気持ちが楽だった。

リョウはつくづく思い知った。従姉のキリを思い浮かべた。おい。キリ。世界って本当に広いんだな。俺は色んな人と知り合いになったぞ。そしてな。世の中が楽しいことも知ったんだ。

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