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アンドロイド転生845

2118年7月31日 午前3時
カガミソウタの邸宅:リビング

エムウェイブでスミレの自由を奪ったゲンは両手脚を折り、更に胴体から引き抜いた。半身を切り離し最後に首を捻り取ったのだ。彼女は起き上がる事も、勿論逃げる事も叶わなかった。

痛覚がないとは言えど、心は傷んだろう。スミレは自身の運命を悟ったに違いない。もう2度と恋人のソウタと会えない事に。アリスはスミレの無念を思うと涙が溢れた。アンドロイドも泣くのだ。

イヴは残念そうな顔をする。
『ルークにエムウェイブは大変恐ろしい機器だと伝えましたが、聞く耳を持ちませんでした』
3人の表情に腹立たしさが浮かんだ。

チアキはルークに通信した。頼む。応答してくれ。宙空に彼の立体画像が浮かんだ。チアキはホッとする。ルークは険しい顔をしていた。
『イヴから何もかも聞いた』

リツも表情が険しくなった。
「今どこにいるんだ?」
『品川だ』
「品川か。ゲンは…千代田区の」

『言うな!俺は俺自身の力で奴を見つけ出す!』
リツは首を横に振った。
「ルーク…気持ちは分かるけど、素直になってくれ。今は皆んなが一致団結しないと…!」

ルークはリツを射抜くように見つめた。
『それは不要だ。俺は1人でミオの仇を討つ』
リツは呆れた。
「何言ってんだよ。敵は同じじゃないか」

『いいか。敵を倒すには信念が必要なんだ。他者がいるとその信念が揺らぐし邪魔だ。俺には仲間など必要ない。勝手にさせてもらう』
「エムウェイブは危険だぞ!」

リツは怒りを覚えた。何が信念だ。自分は人間だがルークはマシンだ。エムウェイブが脅威になるんだ。1人で戦って上手くいくものか。
「即座に機能不全になるんだぞ!」

リツは身振り手振りで引き留めようとした。
「ここは皆んなで協力をして策を練ろう。闇雲に戦うよりも、きっといいアイデアが浮かぶ筈だ。な?そうしよう」

『俺は死ぬ覚悟だ』
「馬鹿な事を言うな!」
『ミオがいない。何の未練もない。リツはアリスがいなくなっても世界に未練があるのか』

リツは黙り込んでしまった。同じ立場なら…どうするか…分からない。本当に分からなかった。だって想像なんて出来るものか。アリスがいなくなるなんて考えたくもない。

ルークの端正な顔は冷静だがその瞳には揺るぎのない信念と決意が漲っていた。
『ソウタにお悔やみを言ってくれ。リツ。アリスを大事にしろよ』

ルークの立体画像が掻き消えた。一同は呆然と虚空を見つめていた。チアキが舌打ちをする。
「ホントに頑固なんだから!リツ。ダメだよ。ルークは止められないよ」

イヴは当然のような顔をした。
『私はルークの信号を捉えています。彼はタクシーに乗りました。東京駅に向かっているようです。近い内にゲンと対峙するでしょう』

そうだ。リツが放った千代田区と言う言葉を聞いたに違いない。本意ではなかろうが彼はゲンの居場所の目星をつけたのだ。ホテルを虱潰しに当たるだろう。見つけ出すのも時間の問題だ。

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