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アンドロイド転生507

銀座:高級バー

「ご馳走させて頂いても宜しいでしょうか?」
ゲンの申し出に女性は光輝く笑顔を見せた。
「ええ。じゃあ、あなたも隣に座って」
ゲンは慇懃に頷くとスツールに腰を下ろした。

女性は運ばれてきた美しいブルーのカクテルに口をつけた。優雅な仕草だ。
「ゲンと申します。宜しくお願い致します」
「私はヒカリ。あの子はエマ」

ヒカリはピアニストに向かって指を差した。
「友達なの。私は画家」
「ヒカリさん。素敵なお名前ですね。まさに貴方を表しています。ピッタリです」

ヒカリはゲンの背後を見渡した。
「あなたは1人なの?」
ゲンはニッコリとする。
「はい。そうです」

ゲンに嘘など容易かった。
「ホテルペニンシュラに滞在しています。主人は作家で旅行に出掛けました。私は時間が空きましたので散策に参りました」

ヒカリは何もかも分かったと言う風に頷いた。
「ゲンは執事なのね?」 
勝手にそう思ってくれれば良い。
「はい」

流れるように言葉が出た。
「私の主人は気ままなので当分は帰って来ません。つまり私の時間は充分にあるのです」
ヒカリと過ごせるのだと暗に示した。

ヒカリは微笑む。美しい顔が更に輝いた。
「私もね。今は暇人なの。来月は個展があるんだけど絵は全部描き上げたの。充電期間中。だからエマを訪ねたの」

ヒカリの視線に気付いたエマは鍵盤を叩きながら優雅に頷く。ゲンを見てニッコリとした。ゲンは嬉しくなった。なんて余裕のある人間達だろう。世の中は広いのだと実感する。

誕生して3ヶ月のゲンが知っている世界は戦場だった。倒さねば自分は終わる。生か死かだったのだ。主人も残忍なスオウと愚かなマサヤ。仕えながらも疑問ばかりが生じた。

ヒカリは悪戯っぽく笑った。
「あなたは…私に付き合えるって事ね?」
ゲンは余裕ある仕草で微笑んだ。
「はい。お気に召すままに」

真夜中。ゲンはヒカリと共に店から出てきた。銀座の街を手を繋いで歩いた。ヒカリは人間の男女にもアンドロイドにも恋をするマジョリティと言う類の人間だった。

「ヒカリさん。貴方を帰したくありません。明けの明星を一緒に眺めませんか?」
「誘い文句が古いけど…ロマンチストね!」
ヒカリはゲンを見上げて満面の笑顔を見せた。

ゲンは溜息をつく。なんて美しい女だろう。骨格や目鼻の配置が素晴らしい。ゲンは自信に溢れていた。自分は必ずや彼女に快楽を与えてみせる。2人はホテルペニンシュラに入って行った。

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