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アンドロイド転生932

2118年12月20日 昼過ぎ
サクラコのマンション

主人のサクラコの立体画像が宙に浮いた。
「サヤカ(アオイ)ちょっと来てくれる?」
家事をしていたアオイは返事をしてアトリエに駆けつけた。室内にはサクラコとトウマがいる。

トウマはサクラコの絵画教室の生徒だ。10歳の頃からレッスンを受けている。最近は学業もプライベートも忙しくて訪れるのは稀だ。だが今日は大きなキャンバスを抱えてやって来た。

2時からのレッスンだが、他の生徒達が来るよりもずっと早くトウマは来たのだ。どうやら自分の作品をチェックして貰いたいらしい。目の前にイーゼルがあり絵が置かれていた。

見た瞬間にアオイにはモデルが分かった。
「シオン…」
ホームの家族だ。銀髪に紫色の瞳の大変美しい少年だ。彼がこちらを見返している。綺麗だ。

「…何故?シオンが?どうして…?」
サクラコがシオンの絵に向かって指を差した。
「トウマ君のお向かいに住んでいるんだって。この子のホームステイ先なんだそうよ」

アオイの胸にホームステイという言葉が浸透した。シオンは…国民になったけど…そうなのか。トウマの…カノミドウ家の向かいに住む事になったのか。それは…また縁があるなと思う。

アオイはホッとする。モネは学校だ。いなくて良かった。シオンとトウマに接点が生まれたならいつかルイだって関わるかもしれない。そうなれば…モネの気持ちも落ち着かないだろう。

サクラコの瞳は好奇心に輝いた。
「サヤカ。どう?本人とそっくり?」
「はい。そのものです。ビックリしました。トウマ様…とってもお上手ですね」

サクラコはうっとりとなる。
「そっかぁ。こんなに綺麗な子なんだ。創作意欲が湧くなぁ…会ってみたいなぁ…」
サクラコはかなり才能がある画家だ。

トウマの瞳が煌めいた。
「今度連れて来ますか?」
「え!会いたい!」
「ダメです!」

驚く主人をアオイはじっと見つめた。
「シオンと…ルイは親戚です。何かの機会でルイとモネ様が再会するかもしれません。サクラコ様はそれを望まないでしょう…?」

アオイの気持ちとしては本当は会わせてあげたい。2人の仲を復活させたい。モネは今だにルイを忘れられないでいる。だが再燃すればまたサクラコが割って入って壊すだろう。

サクラコはルイの近親婚の血を毛嫌いしたのだ。万が一娘と結ばれても、偏った血筋で子供に障害でもあったらと過度な心配だった。だが彼女は遺伝子に並々ならぬ執着があるのだ。

自分が子供が産むと決めた時も、数ある恋人の中から選ばす遺伝子バンクを利用した。吟味して相手を選択し、娘に恵まれたのだ。モネは容姿端麗で頭脳明晰、性格も穏やかだった。

自慢の娘なのだ。だから別れて欲しいと言ってルイに迫った。ルイは最初は拒否したが、最終的には折れた。自分の血が災いなのだと納得して恋を諦めたのだ。可哀想でならなかった。

ルイは一方的にモネに別れを告げた。ルイはサクラコを悪者にしなかったのだ。それが彼の優しさだと思う。モネは当初は拒否したものの理由も分からないまま別れを受け入れたのだ。

アオイは彼らの悲しみが辛かった。傍観者として何も出来ない自分が情けなかった。ただモネの側にいるだけだった。望む事はただひとつ。もう2度とモネが涙する姿を見たくない。


※サクラコの宣言のシーンです


※ルイとモネの別れのシーンです


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