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アンドロイド転生966

2119年3月31日
(シオンの家)

義姉のマイカはトウマとの恋愛を応援してくれた。力強い存在を有難く思う。その後いそいそと出掛けて行った。彼氏と花見だそうだ。そして自分も家を出る。トウマとデートだ。

・・・・

(都内某所 桜並木)

「来週から社会人だ」
トウマの言葉にシオンは頷いた。彼は薬学部で6年間学び、薬剤師の資格を取った。家業のカノミドウ製薬に就職したのだ。

シオンはトウマをじっと見つめた。24歳か。大人だなと思う。大学生だったトウマも大人に見えたが社会人となると更に距離が離れたように感じた。シオンは今年18歳。彼も来週から高校3年生だ。

「あの…ホ、ホウジョウカズキが…離婚したって母親から聞きました」
「うん。らしいな」
「トウマさんが何かしたんですか…?」

「やめて下さいってお願いしたんだ」
そんなお願いであのカズキが従うとは思えないが兎にも角にもトウマのお陰のようだ。
「有難う御座いました」

トウマは微笑むと一転、真剣な顔をした。
「それでシオンに聞きたいんだけどさ…。カズキの事なんだけど…シオンにした事は…犯罪なんだ。だから…警察に行くか?」

シオンはハッとなる。警察…。そしたら…そしたら…シラトリ一家にも自分の両親にも知られてしまうだろう。そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。シオンは激しく首を横に振った。

そうなのだ。罪を糾弾する事だけが良いとは限らない。被害者なのに世間は好奇の目で見たり批判したりする。さも本人が悪いだとか実は喜んでいたのだと言い切る他人がいるものだ。

被害者はまた更に追い詰められる事になる。やむ得ないが辛い事は目を閉じてしまう方が良いケースもあるのだ。シオンは宙を見上げた。
「もう…いいんです。忘れます」

「分かった。俺がそばにいるからな」
そんな一言にどんなに救われるか。僕には大事な人がいて、その人が守ってくれるんだ。そう実感して心が温かくなる。シオンはこくりと頷いた。

2人は無言で桜並木を歩く。元来、寡黙な2人なのだ。だが言葉を交わさなくても彼らは心が通じ合っていた。それだけ互いを慈しみ、理解し、心を解放しているのだ。

間もなく桜が満開の公園にやって来た。人で溢れ返っている。薄桃色の春の一瞬を楽しんでいた。出店が多く並んでおり食欲をそそる匂いが充満していた。アンドロイド達が勧めている。

大きなジャガイモの真ん中を十字にカットして蒸したものがあった。ホカホカと湯気が上がっている。アンドロイドがバターを乗せるとトロリと溶けて光った。客達が受け取っている。

「僕…これが食べたい」
「よし」
トウマはホッとする。シオンはすっかり痩せてしまったのだ。太らせたい。

2人は注文すると、歩きながら食べ始めた。
「すっごく美味しい」
「だな。B級グルメって言うんだぞ」
「へぇ…!」

多くの人が散策している中で彼らから遠く離れた場所でマイカと恋人が手を繋いで歩いていた。シオンとトウマを見つけて立ち止まる。
「どうした?」

マイカはシオンを指差して微笑んだ。
「見て。あの銀髪の子。弟なの。前から言ってるでしょ?義理だけど可愛いって。隣にいるのが彼氏。幸せそう…。良かった…」

シオンは年末から最近までずっと元気がなく、いつも暗い顔をしていた。尋ねても答えてくれなかった。でも今は笑ってる。悩みが解決したらしい。嬉しかった。大事な家族なのだから。

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