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アンドロイド転生608

茨城県白水村の集落:リビング

エリカは時間を確認した。ルイは戻って来ない。村を出てから随分と時間が経っている。どうしたのだろう?エリカの内側でコール音が鳴った。応答するとルイの姿が宙空に浮かんだ。

「どうしたの?もう8時を過ぎてるよ」
『大変な事になったんだ。エリカ!頼む!』
エリカは事の次第を知った。モネは意識を失い、執事は頚椎が折れている。

立体画像のルイの息が白い。
『麓の谷にいる。俺では背負って斜面を登れない。雪が降ってる。モネがやばい!』
そう。集落にも雪が舞っていた。

エリカは何度も頷いた。モネが苦しめば良いといつも思っているが、死んでも良いとまでは思わない。助けなくては。
「分かった。タケル達を行かせる」

エリカはルイをひたと見つめた。
「タカオさん達にも言うよ。皆んなに言うよ。オオゴトになるね」
『いいんだ。別に』

ルイの瞳が強い意志を孕む。
『元々親に会わすつもりだったんだから。じゃあ、直ぐに来てくれな!すぐだぞ!』
「分かった」

エリカは居間から飛び出した。タケルを探し、ルイの両親のタカオとキリにも状況を伝えた。誰もが驚き怒りを露わにし呆れ、心配顔になった。瞬く間にホームの人々に知れ渡った。

タケルとエイトは直ぐに完全防備の服に着替えた。タカオも行くと言ったが、ここは強靭な肉体のマシンの方が早い。タカオは諦めた。
「タケル、エイト。頼むぞ」

タケル達は飛ぶように駆けて行った。その背を人間達は見送った。キリは眉間に皺を寄せた。息子の恋人が危険な状況だ。全く若さとは大胆で愚かだ。天を見上げ無事を祈った。

集落に残ったエリカ達が其々ドローンと同期した。カメラがアンドロイドの目となるのだ。ホームから機器が飛び出した。ルイが装着しているモネの携帯電話のGPSを目指した。

5分ほどでドローンはルイの元へ到着した。ルイの隣には首を横に傾けた中年型のアンドロイドがいた。モネの執事のザイゼンだ。熊に襲われ、谷に落ち頚椎を損傷したのだ。

ルイとザイゼンはしゃがみ込み、モネの側にいた。モネは横たわっており微動だにしない。ルイはモネの顔に覆い被さり雪を遮っていた。7機のドローンを見上げた。顔が引き攣っていた。

ドローンからはアンドロイド達の立体画像が投影されていた。ルイはエリカを見た。
「タケルは⁈あとどれ位で着く⁈」
『20分位だと思う』


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