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アンドロイド転生911

(回想)
2118年10月27日 
スオウ組事務所

スオウの息子のソラが去って行くと俄かに室内は静寂となり、そして微かな緊張が張り詰めた。リツは深々と頭を下げた。
「ソラ君を誘拐してすみません」

ソラ本人がどんなに楽しかろうと、大人達の都合で子供を利用したのは事実だ。リツは潔く謝罪した。スオウに怒りはなかった。今更追求してどうなる?もう終わった事だ。

「息子は随分楽しかったようだ。夢だと言っても信じず、何度も同じ話をしてまた行きたい、またピンクのケーキが食べたいと言ったんだ」
「僕も楽しかったです」

スオウは徐々にいつもの自分を取り戻していた。ヤクザの重鎮としていかなる時も組の利益になるように事を進めるのだ。
「さて…カガミ君と言ったな。話し合うか」

カガミソウタは顔を引き締めて頷いた。これから大事な局面である。彼が調べ上げたスオウ組の薬物に関する顧客データとアンドロイドのゲンの契約者の権利を交換するつもりだ。

スオウとしても利点が大きい。たかがアンドロイド1体を譲れば警察の捜査網から外れるのだ。だが素人に踊らされるのはどうも癪に触る。ここはこちらが舵取りをしたい。

スオウは鷹揚に笑った。
「君はうちと顧客の全ての取引を調べたのか?」
「うん。時効前の10年間分。顧客側の履歴も全て。外国人、逃亡者、偽名、匿名も全てね」

「1人残らずか」
「そう。これを消せば誰も警察に嗅ぎつけられないよ。スオウ組は助かるね」
「ほほう。それは頼もしいな」

ソウタは丁寧に頭を下げた。
「全てのデータをこの世から消去します。見返りにゲンの契約者の権利を譲って下さい」
彼は言葉を改めた。本気の現れだ。

「でも…嫌だと言うなら…警察に渡します」
側近のトミナガが一歩前に出た。
「ガキめ。シャラ臭いことを抜かすな!」
「トミナガ。黙れ」

スオウはニヤリとした。
「君は…この間も言っていたが…イタリアと中国の爆弾取引に関わったとか?」
「はい。簡単でした」

スオウ組が爆弾取引の仲介者になるようにソウタは得意のコンピュータ技術でAIのイヴと共に画策しスオウは莫大な手数料を手にしたのだ。
「私の資産がまた増えたよ」

「それは良かったですね」
「それでだな。君のその技術は素晴らしいと思ってね。提案だ。どうだ?うちに入らんか」 
「遠慮します」

スオウの瞳が光った。
「じゃあ…3日間はどうかね?その3日の間に色々と片付けてくれんかな。うちはドラッグ以外にも手広くやっているもんでね」

ソウタは呆れたように笑った。
「さすがヤクザだね。ドラッグ取引のデータを消去すると言う大きな利益を得ても、更に欲しいものは沢山あるんだね」

次いで真剣な表情になった。
「でも3日間手伝ったら…契約者の権利は譲ってくれるね?絶対だね?」
「約束しよう。必ず譲渡する」

翌日からソウタは犯罪とも言える作業に加担した。罪の意識などなかった。仇を討つ為には何でもするのだ。天才の彼にとってどれも容易い案件だった。3日後。晴れて譲渡契約書を手に入れた。

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