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アンドロイド転生787

2118年6月16日 深夜0時過ぎ
東京都渋谷区:歓楽街

ゲンはアキコをまんまと騙し、エムウェイブ(アンドロイド制御装置)をこっそりと持ち出して家を出た。タクシーに乗り、新しい宿を見つける為に茨城県から都内に向かっていた頃。

ルークは人混みの中を歩いてゲンを探していた。だが闇雲に探しても見つかるわけがない。東京でたった1体のアンドロイドを発見するのは奇跡だ。大海で小舟を探すようなものなのだ。

ルークはホテルに入るとコンシェルジュアンドロイドの前にやって来た。
「マシンを探している。繋いでくれ」
「承知しました」

互いの頸に無線ケーブルを差す。ルークはコンシェルジュが見たもの聞いたものを共有するのだ。ゲンが逃亡してから今日までの履歴を探るために。ルークは礼を言って立ち去った。

今回も収穫はなかった。ルークは毎日そうやってホテルを虱潰しにあたりゲンを探していたのだ。今回のホテルで352件目だった。だが諦めない。何があっても発見するのだ。

ホテル以外の探索方法として電気ステーションがあった。街の至る所にあり無料で誰でもマシンでも手軽に充電が出来る。だからこそ放浪のルークも機能していられるのだ。

電気ステーションにアクセスをして記録を探る。ゲンも充電していると踏んだのだ。だがゲンは元主人から多額のペイを強奪しており無料ステーションを利用する事はなかった。

それ以外には探す方法はなかった。平和な日本には監視カメラは過去の産物なのだ。今は県境にあるのみ。街にはない。だが探す事には何の苦もない。ルークの意思に揺るぎはなかった。

ルークはミオを苦しめたゲンに復讐する事を決意した。ホームを去った後にまず訪ねたのは、ゲンの恋人のオクザワヒカリの家だった。平和な日本は個人情報など容易く調べられるのだ。

執事アンドロイドが取り次ぐ。
「ゲン様はとうにここからお出になられました。何処に行ったかは存じ上げません」
そこにタイミング良くヒカリが帰宅した。

ヒカリは腕を組んで太々しい態度だった。
「は?ゲン?さぁねぇ。何処に行ったか知らない。ホテルじゃない?初めて会った時は銀座のペニンシュラに泊まってたし」

ゲンはヒカリが詐欺を働いたとして刑事事件になり逮捕され、保釈金を支払って家に戻って来た時にはいなかった。出て行ったのだ。恋人づらしておきながら随分薄情だと思ったものだ。

ヒカリは鼻で笑う。
「それか…女でもナンパして転がり込んでるかもね。そういうのが得意なマシンだったから」
ルークは礼を述べると立ち去った。

ホテルか…。女の家か…。それはホテルの方が探しやすい。それからは毎日ホテルの梯子だ。だがそんな苦労をしなくてもイヴに尋ねればゲンの行方など立ち所に判明するのだ。

しかしルークはそれを望まない。ミオの仇を討つのに他者を頼りたくなかったのだ。全て自分の力でやり遂げるのだ。必ずやゲンを見つけ出す。何があっても何年掛かっても。

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