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アンドロイド転生254

2117年12月8日
東京都新宿区:平家カフェ

ドウガミリツは両親と共に営んでいた。白が基調の清潔な店内では人間が料理を作り提供していた。アンドロイドが全てを担うこの時代では珍しい事だ。味わいは逸品で根強いファンが多かった。

カフェの出入り口がスライドして少女3人が来店した。場が一気に華やかになった。
「いらっしゃいませ」
リツの母親がテーブルに案内し水を配った。

1人の少女が口を開いた。
「こんにちは。ケーキが美味しいって。人間が作ってるって知って来ました」
「まぁ、有難う御座います。そうです。家族で作っています。こちらがメニューです」

母親が空中をタッチするとホログラムのメニュー表が浮かび上がる。勿論、原材料・カロリー・脂質・糖分など詳細が記載されている。何よりも美味しそうな画像に少女達は目を輝かせた。

リツは気が付いた。ああ、あの子達はルイとショッピングモールに訪れた時に出会った。別れ際に店の宣伝をしたけど本当に来てくれたんだ。少女達は品物が決まったようで顔を彷徨わせる。

リツはカウンターから出た。
「いらっしゃい。来てくれて有難う」
「ホームページを見たの!美味しそうだったから来た!チーズケーキを3つ下さい。紅茶も3つ」

リツはチーズケーキを用意した。最高級品の新鮮なチーズや卵などを使用している自慢の逸品だ。平家カフェのこだわりなのだ。そして何よりも心を込めて作ること。それが大事だと思っている。

リツはテーブルに運んだ。母親がティーポットでお茶を作って持っていく。芳醇な香りが漂う。少女達は期待に瞳を輝かせてケーキを口にした。目を丸くして次々に声を上げた。

「美味しい〜!コクがある〜!」
「甘さが丁度いい〜!」
「紅茶もいい香り!」
少女達の喜びがリツも嬉しかった。

「ねえ?お兄さん!ルイは?元気?」
3人の中で1番快活な少女がリツを見上げた。確かニナという名だ。
「元気だと思うよ」

「ねぇ?ルイはホントにケータイ持ってないの?」
ルイは携帯電話を所有していない。集落では必要がないのだ。リツは残念そうな顔をした。
「うん。親御さんの方針でね」

ニナは友人達を見渡してまたリツを見た。
「私達、また会いたいなぁって思ってるの。連絡つかない?」
「そうだなぁ…。ちょっと待ってくれる?」

リツはカウンターに戻ると耳に指を当てた。スマートリング(携帯電話)が起動し、これで恋人のアリスと通話が出来る。直ぐにアリスの立体画像が宙空に浮かんだ。

リツは少女達の来店と彼女らがルイと話したい旨を伝えた。アリスは柔かに微笑んだ。
「ちょっと待ってて。ルイを呼んでくる」
「オッケー」

リツはニナ達の前に戻った。
「ルイと話せるよ」
「やったあ!」
3人は顔を見合わせて喜んだ。

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