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アンドロイド転生699

2118年4月25日 議会投票後の5日後…。
東京都新宿区:平家カフェ

数日前に店主のキヨシが茨城県から帰って来た。ホームの存亡をかけた会議の為に彼は存続派の代表として約1ヶ月間、村に滞在していたのだ。決議の結果敗退してしまった。

だが彼は諦めていないようだ。今はホームの若者や子供達をタウンに送り出す手筈を整える為に何度も総務省に出向き、精力的に活動をしている。カフェを留守にする事も多い。

アンドロイドのチアキは村に戻るつもりだった。元々は人手が少ないからと手伝いに来ていただけなのだ。だがキヨシが不在なので、妻のマユミに請われてそのまま残っていた。

カフェにはアンドロイドのアリスもいるが、彼女と自分の立場は違うと理解している。キヨシの息子のリツと恋仲なのだ。彼女はまるで娘か嫁のように振る舞って幸せそうだ。

夕食時。店は今日も忙しかった。いつも客足が途絶えず活気があった。見栄えが良く栄養価が高く絶品の料理にはファンが多い。チアキは女性客のテーブルに食事を運んだ。 

「もしかして…チアキ先生?」
チアキは若い客を繁々と見つめた。自分を先生と呼ぶ人間。それは遥か昔。17年前…。チアキは保母だった。懐かしい思い出が蘇る。

「はい。チアキです。保母をしていましたが…あなたは…園児の方ですか?」
客の顔がパッと華やいだ。
「ああ!やっぱり!チアキ先生!」

チアキは量産型のアンドロイドではなかった。元主人は幼稚園の経営者で、チアキは亡き妻のモデルで特別注文だった。唯一無二の存在である。だから彼女は気付いたのであろう。

この女性は誰なのかしら…?チアキはメモリを探った。客の顔と多くの園児の顔からパーツを切り取り照合させる。成長しても変わらない部分はある。ホクロで直ぐにヒットした。

「ああ!ミシマユイ様ですね?」
「そう!そうです!」
「ユイ様。お美しくなりましたね。お元気そうで何よりです」

「先生は当たり前だけど全然変わってないね!本当は先週来た時に、あれ?何処かで会ったなぁ…ってずっと思ってたの。家に帰って、あ!って思い出して…また会いたいなぁって」

チアキはニッコリとして頭を下げた。
「有難う御座います」
アンドロイドの自分に再会を望むなんてこんなに嬉しい事はない。

ユイは一転して悲しげな顔になった。
「幼稚園が突然終わりになっちゃって凄く寂しかったの。本当に楽しかったから。後から…園長先生の事…親から…聞いた…」

園長で経営者のノムラは自ら命を絶ったのだ。誰もが心を傷めた。彼に相続人はおらず施設は閉鎖になってしまった。やはり誰もが残念に思った。幼稚園は絶大な人気があったのだ。


※チアキが誕生したタウン時代の出来事です



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