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アンドロイド転生305

東京都品川区:スオウトシキの邸宅

「TEラボだと…?」
「はい。旦那様」
「お前もそうだったかな?」
「はい。私の出身もTEラボです」

スオウは日本庭園を横目に緑茶を口に運んだ。芳醇な香り。澄んだ色合い。程良い甘味。軽い渋み。深いコク。高級な味わいである。目の前にはホログラムの将棋盤。対戦相手はAIだ。

スオウ鼻で笑った。
「お前も盗みに入るのか?」
「旦那様の御命令であれば従います」
「そうか」

スオウは表向きは建設業の代表者であるが裏家業は暴力団組織のスオウ会のトップである。その世界では重鎮だった。今年72歳。平均寿命が140歳の現代ではまだまだ脂の乗った年代であった。

今から1年程前に屋敷に何者かが忍び込み、絵画と貴金属を奪っていった。旅行中で留守にしている時の事だった。邸内には守衛マシン数体に警備をさせ邸内は万全なセキュリティだったのだが。

表沙汰には出来ない金品だった為、保険にも入っていない。絵画は別の組との良好な取り引きに使うつもりだったのにそれを奪われ、怒り心頭だった。一体誰が盗んだのか?某国の仕業かと懸念した。

執事の話ではTEラボのアンドロイドが盗みを働いているという情報が先程ダークウェブに出回ったそうだ。まさかTEラボがアンドロイドに命令をして金品を強奪をさせている?

スオウは首を捻った。そんな事をしてラボにどんな得があるのか。いや、確かに莫大な利益を生むがそれを盗んで売り捌くのか?上場企業が?どうも信じがたい。彼の勘が働いた。

それよりもラボの職員が不正行為を働いてアンドロイドに命令している方が理に叶う。マシンなど次から次へとニューモデルが出来るのだ。つまり廃棄されるのも多いという事だ。そのマシンを改良して盗みをさせているのだろう。

スオウは自分の推理に満足した。さて。次にする事は…勿論報復だ。ラボの不正な職員を暴きたい。この私を謀るとは許せない。思い出すだけでも腹が立つ。スオウの冷酷な瞳がギラリと光る。

将棋の自分のターンがやってきたが次の手が進めないうちに時間切れとなった。スオウは不敵に笑った。盤上のゲームとは違って私の世界は終わりになどするものか。追い詰めてやる。

スオウは庭園を眺め執事を振り返った。
「マサヤを呼べ」
マサヤとはスオウの息子だ。
「はい」

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