見出し画像

アンドロイド転生756

〔9部 始〕

2118年5月23日
茨城県つくば市:TEラボの会議室

「電磁波は英語表記でelectromagnetic wavesです。ですので私は機器の製品名を略してエムウェイブと名付けました」
研究主任のフクイは微笑んだ。

「こちらが原物の画像です」
ホログラムの立体画像が宙空に浮かび、掌サイズの小型の機器を360℃あらゆる方向から映し出した。一見すると大きめのペンに見える。

「次にこちらをご覧下さい」
立体画像の中の白衣を着た研究員が対象のアンドロイドにエムウェイブを向けた。アンドロイドは約3秒後に崩れ落ちた。

場内が湧き立つ。役員達が感心するように声を上げたのだ。互いに顔を見合わせて満足そうに微笑んだ。どうやらフクイ研究主任は自分達の望む物を造り出したようだ。

電磁波を受けてアンドロイドは機能不全になるのだ。停止ではないので再始動ボタンを押せば動き出す。万が一暴走した時の為の緊急措置としてエムウェイブを利用するのだ。

フクイは満足げに微笑んだ。
「1000回の試用テストをしました。有効率100%でした。どのラボのアンドロイドでも有効です。これさえあれば暴走を防げます」

役員の1人は渋い顔をした。
「歌舞伎町の事故で国から通達が来てる。アンドロイドが暴走して多くの犠牲を出した。幸いうちの製品ではなかったが、問題が多いとな」

約2ヶ月前に起こった新宿のクラブ夢幻の事故は前代未聞だった。店内でアンドロイドが乱闘したのだ。地下で逃げ場が失われ客が巻き込まれた。84人の若者が命を落としたのだ。

別の役員も顔を顰めた。
「マシンの性能に自信をもって輸出に力を入れていたのに、ここに来て日本の信用度が落ちてしまった。我が社にとってもダメージだ」

フクイ研究主任は頷いた。
「ですが今の世の中にアンドロイドを失くすという考えはありません。必要不可欠な存在です。マイナスイメージは必ず払拭出来ます」

そう。アンドロイドは人間にとってその利便性は計り知れない。世の中のあらゆる場面でマシンの存在が必要なのだ。だとしたら、する方法はただひとつ。コントロールする事だ。

役員達は厳しい顔をして腕を組んだ。
「問題は…人間に影響があるって事だな?」
「そうだな。アンドロイドだけをピンポイントに狙う必要があると突っ込まれるだろう」

フクイは自信ありげに微笑んだ。
「ですが今は世論にとって暴走対策として何が何でも必要でしょう。エムウェイブの存在は大いに役立つに違いありません」

役員がニヤリとする。
「そうだ。難点より利点が勝れば世論は動く。この機器は我が社にとって光明になるぞ。おい?これはまだうちだけの開発なんだな?」

フクイは頷いた。
「はい。特許出願の許可をお願い致します」
役員達は全員一致で頷いた。フクイは満足そうに微笑むと会議室を後にした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?