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アンドロイド転生243

2115年9月

アオイとサツキの部屋

「サツキさん。お早う!」
6時きっかり。スリープモードにしていたアオイはタイマーで目覚め、サツキに声をかけた。彼女も同時に目を開けていた。2人は起き上がった。

「アオイさん。お早うございます」       タウンではサヤカと名乗っていたアオイだったが、生前の本名を打ち明けた。それからサツキはアオイと呼ぶようになった。嬉しかった。

サツキはホームに来て1ヶ月。自我の芽生えのないサツキは慇懃な態度で誰にも接していた。アオイは彼女が目覚めようがそうでなかろうがどうでも良かった。そのままの彼女が好きなのだ。

2人は身支度を済ませ、キッチンに行く。人間と共に朝食の準備をする。当初サツキは人が炊事をする事に驚いた。タウンでは労働はアンドロイドが行うのだ。ホームとの違いに目を白黒させた。

間もなく食事が出来上がると59人の人間と10体のアンドロイドが場を共にして賑やかな時間が始まった。アオイもサツキも幼児の世話をする。ナニーとして本領発揮が出来て幸せだった。

キリがサツキの隣に座った。
「サツキ、話があるの。後でリペア室に来て」
すぐ傍にいたアオイの心臓が高鳴った。きっとキリは夜の狩の話をするに違いない。私は口を挟めない。これはサツキが決める事だ。

食事が終わると片付けをして、サツキはリペア室に行った。アオイは黙って眺めた。自意識のないサツキはどんな判断をするのだろう。キリは服従させるつもりなのか。


リペア室

サツキはキリと相対して椅子に座っていた。キリから全ての話を聞いた。
「泥棒ですか…。そうですか…。皆さんが柔術が出来るのはその為なのですね?」
「そう」

サツキはキリを見つめた。
「私の存在意義は人間を幸せにする事です。私が泥棒をする事でホームの方々が幸福になるならば是非そうしたいです」

キリはそれに応えなかった。
「サツキは…自意識の芽生えはまだないんだよね?生きたいとか…愛したいとか…」
「お子様達を愛しています」

「自分が愛してもらいたいとかは?」
「お子様達は私が愛情を注ぐと返してくれます。それが私への愛です」
「分かるんだけど、そうじゃないんだなぁ」

サツキは小首を傾けた。キリは続ける。
「じゃあ、生きたいは?」
「生きたい…ですか。それは私の機能が続くという事ですね。私はお子様のお世話を出来て毎日が幸せです。ですのでこのまま続けば満足です」

キリは他のアンドロイドとサツキの違いを実感した。やはり彼女には自意識の芽生えはない。まるでマニュアル通りの返答だ。これはどうしたものか。だが泥棒をせよと言ったら従うだろう。

でも…そうやって服従させる事はしたくない。サツキの意志で狩の仲間に加えたい。彼女にはこのままナニーとして働いて貰えば良いだろう。
「泥棒はしなくていいよ」

サツキは微笑んだ。
「はい。分かりました」
「いつか自意識が芽生えた時に判断して」
「はい。分かりました」

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