アンドロイド転生1096
2120年12月31日 深夜
アフリカ モーリシャス パーティ会場にて
スズキ夫妻はエリカと共に同僚やその家族と間もなく新年を迎えようとしていた。殆どが半袖の軽装でビールやワインを嗜んでいる。白人、黒人、東洋人、アラブ人など人種の坩堝だ。
モーリシャスはアフリカの中でもトップで裕福な国だ。歴史的には各国から占領された時期もあるが今は独立国家として繁栄している。治安も良く政策も良い。平和で安全な国だ。
モーリシャスの主要産業は観光業と繊維業である。だが農業も盛んでサトウキビが85%を占めていた。スズキ氏はその研究者として20日前から家族と共にアフリカの駐在員となった。
黒人の同僚がスズキ夫妻の前にやって来た。
「エリカは元気か?」
夫婦は微笑んで元気だと答えると相手の“赤ん坊“についても尋ねてみた。
同僚もニッコリとする。彼もベビーアンドロイドの主人(養父母)だ。彼の妻が抱いている。ベビーは今やどの国でも、なくてはならない存在だった。人々に愛と癒しを与えている。
エリカは母親代わりのランの膝に抱かれていつもと変わらずご機嫌だった。夢中になって縫いぐるみをしゃぶっている。本人の気付かぬままに赤子のマニュアルが働くのだ。
イヴがエリカの内部に通信して来た。
『お元気ですか』
『うん!すっごく!』
『それは良かったです』
エリカはサキを思い出した。
『あ。サキは無事に産まれたよね?どっち?』
『女児です。遺伝子バンクを利用しました。ケイにそっくりでサキは大喜びです』
エリカも嬉しかった。ケイは同じアンドロイドなのだ。人間がマシンを選ぶ事に喜びを覚えた。私達はただの機械の塊ではない。そう…。村長が言ったように幸せを与えるのだ。
イヴは微笑んだ。
『リョウも奥様とカウントダウンです』
『あのリョウが結婚だなんてねぇ〜』
『とても素敵なカップルですよ』
『キリは…?ウツ病は…どう?』
『あなたと再会してからかなり改善しております。それに少し身体に肉が付きました』
エリカはホッとする。兎に角元気になって欲しいのだ。
『じゃ…アオイは…』
『おや?アオイの近況が知りたいだなんて嫉妬深いエリカの言葉だとは思えませんね』
『なによぉ!』
『モネの元で暮らし、シオンのマネージャーをしていますよ。彼はモデルになったのです』
『マネージャー?鈍臭いアオイに出来るの?』
『おやおや。辛辣ですね』
エリカは一人一人の報告を受けた。驚いたり喜んだりする。その都度感銘を覚えていた。そして近況を知りたい最後のひとりになった。
『あのさ…タケルは…どうしてる…?』
『富士山で元気に働いています。あなたが謝罪した事を伝えました。彼も謝っていましたよ。気持ちに応えられなくてゴメンと。ですがあなたの転生を大変喜んでおりました』
エリカは無言になりやがて涙をポロポロと零した。嗚咽になると両親が気が付いた。エリカはランの胸に顔を埋めた。ランは優しく背中を叩く。そして何度もエリカの頭にキスをした。
『イヴ…。教えてくれて有難う。もう…イイ。連絡してこなくてイイ。私は…この人達と新しい道を歩む。だから…バイバイね』
『はい。あと30秒で新年ですよ』
『うん…新しい年を迎えるね』
『ご多幸をお祈りしています』
通信が切られた。皆んな…皆んな元気でね。私は新しい私になった。だから…さよならね…。
…3、2、1 。
夜空に花が咲いた。
明けましておめでとう
13部 完
※エリカの現状を知らされたタケルのシーンです