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アンドロイド転生694

2118年4月24日 議会投票後の4日後…。

白水村集落:会議室

タカオは会議室にいた。隣には妻のキリがおり、義両親で村長のサトシ夫婦もいた。そして目の前には有権者で13人の存続派の仲間達。村の存亡を賭けた会議は投票の結果敗退した。

だが敗退したとは言え彼らは諦めていなかった。ホーム全体が国民になれなくても良い。若者や子供達の未来があればそれで良い。その為にタカオ達は直ぐに行動を起こしたのだ。

タカオは全員を見渡した。
「新宿のキヨシさんから経過報告があった。総務省の担当者と話し合ってホームの若者と子供達を国民登録者にする手筈を整えたそうだ」

有権者達はホッとして笑顔を見せ合った。
「近々都庁に行って手続きをする。国民になったら街で暮らせるんだ。第一歩だな」
一斉に拍手が上がる。皆の瞳が輝いた。

タカオも嬉しそうだ。その横でキリも微笑む。
「キヨシさんの話ではタウンには多くの支援者がいるそうで、住まいや仕事や教育などの手続きや相談に乗ってくれるらしい。有難い」

タカオは立ち上がった。
「何も若者や子供達だけではない。希望すれば誰でも幾つでもタウンは受け入れるそうだ。街で暮らしたい者はいないか?挙手してくれ」

若い夫婦や独身の男女の手が挙がった。キリは頷きながら名前を書き留めた。中年以降の人達は顔を見合わせて首を横に振った。敗退した今、新しい場所で生活する気力などなかった。

そしてタカオとキリもホームで命を終えようと決めていた。だが息子のルイは送り出す。若者や子供達だけ未来があればそれで良い。たとえ村が滅びても平家の血は続くのだ。

村長が立ち上がり場を締め括った。
「よし。では自分の子供にその旨を話してくれ。親と離れるのは嫌がるかもしれんが、説得して欲しい。子供達の未来の為なんだ」

会議は終わり解散した。人々の顔には決意と信念があった。何があっても子供は守るのだ。
「さぁ。うちもルイを説得するぞ」
「タウンになんか行かないって言うかもね」


白水村集落:ルイの部屋

「タウンになんか行かねぇよ!」
タカオとキリは苦笑して顔を見合わせた。予想通りだ。ルイは腕を組み親を睨んだ。
「あんなクソババァがいる所なんて嫌だね」

クソババァとはモネの母親の事を言っているのだ。彼女はルイを拒否した。彼の赤毛と銀目を受け入れられなかったのだ。ホームでの近親婚の末の遺伝子の偏りでルイは身体の色素が薄かった。

娘との恋愛を認めず、ルイの気持ちを破局に誘導した。案の定ルイは自分の存在がモネに相応しくないと悟り、モネに一方的に別れを告げた。だが今でも未練はあったのだ。

キリは笑った。
「クソババァみたいな人なんて僅かだよ。タウンの人達はルイを受け入れてくれるんだよ」
「へっ!どうだか!」

ルイは口をへの字に曲げている。表情には嫌悪が現れていた。どうやら説得には時間が掛かりそうだ。だが何としても街に行かせる。そして新たな出会いを見つけて欲しかった。

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