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アンドロイド転生666

東京都港区の病院:モネの個室

モネはサヤカ(アオイ)がいる事が嬉しかった。4年振りの時間の距離など全くなかった。以前と同じように彼女に甘えて頼った。サヤカは全てを受け止めてくれる一番の理解者なのだ。

いや。この時代の人間にとってナニーアンドロイドの存在は大きい。子供は誕生してから12年間を共に過ごす。ナニーは愛情深く、忍耐強く、我が子のように守るのだ。

だから別れが辛かった。何故、ナニーは12歳までなのだとモネは制度を呪った。親よりも親密な関係のサヤカを失う。自分から去っていく。胸が張り裂ける思いだった。

だがモネは心身ともに健康的な12歳の子供だった。日々は新しい事の連続なのだ。いつしか悲しみは薄れ、周りの子供と同様に精神的にもナニーから卒業していったのだ。

それでも時折思い出した。涙する事もあったし、笑う事もあった。悩みがあった時などサヤカなら何と言うだろうと想像した。だが再会する事は2度とない。そう確信していた。

それがナニーと子供の関係性なのだ。それが現代のシステムなのだとモネも理解していた。それなのに、まるで天からの贈り物のように再び出逢った。モネは神に感謝した。

4年前。サヤカは自分と別れた朝、ラボに戻った。記憶を失い、新たに派遣される事を知ってラボから逃亡したそうだ。モネ達の事を忘れたくなかったという彼女の言葉が嬉しかった。

まさか何の因果か縁なのか。自分が恋をしたルイと同じ村に住んでいたとは。名前はサヤカからアオイに変更したそうだ。だがモネにとってはサヤカであり、カーと言う愛称なのだ。

今日もカーは朝から優しく穏やかだ。そして楽しげに自分の側にいる。それが嬉しい。この時間が永遠に続いて欲しいと思う。ナニーから友達になったって良いではないか。

モネは病室内で1人になると早速、スマートリング(携帯電話)をオンにしてエリカにコールした。宙空にエリカの立体画像が浮かぶ。
『モネ!どう?順調?』

モネは微笑んだ。
「うん。今日の午後からリハビリが始まるの」
エリカも微笑む。
『そっか。頑張って』

モネは言いにくそうに黙り込んだ。唇を噛み締めて1人で何度も頷くと瞳に決意が現れた。
「あ、あのさ…。ルイと連絡取りたいの…」
『え…』

エリカは2人の間に亀裂が入った事は知らなかった。それでもモネの母親が娘達の恋路を反対している事は承知だ。自分が電話の媒介をするのはまずいのでは…と思う。顔を顰めた。

モネの顔が必死になった。
「お願い…!ルイを呼んで来て…!」
エリカは逡巡するがやがて頷いた。
『分かった。待ってて』

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