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アンドロイド転生813

2118年7月3日 午後10時過ぎ
東京都内某所:公園

ゲンはアンドロイドのゴロウを人気のない公園に誘い出してエムウェイブ(アンドロイド制御装置)を照射した。ゴロウは崩れ落ちた。ゲンはゴロウの腕を掴んで渾身の力で捻った。

衝撃音が響いてゴロウの腕は呆気なく折れた。ゲンは反対の腕も、そして両脚も折った。
「アンドロイドに痛覚があれば面白かったですね。きっと私の気分が晴れたでしょうね」

ゲンの元主人のスオウトシキも同じように思った。彼は経営している店でファイトクラブを作ったが、本当はアンドロイドの戦闘ショーではなく人間の戦いが見たかった。

人が痛みに苦しみ悶える姿が愉快なのだ。だがそれは違法だ。だからアンドロイドで我慢していた。機能停止(死)を賭けた一本勝負。観客は喜び、莫大なマネーが動いた。

ゲンは自意識が芽生え、そんな残忍なスオウに嫌気がさしてファイトクラブから逃亡したにも関わらずエムウェイブでマシンの頂点に立つと残酷な気持ちが生まれ始めた。

ゲンは池の淵に置かれているサッカーボール程の石を抜き取ると地面にうつ伏せになっているゴロウの側にしゃがみ込んだ。両腕を天に振り上げゴロウの背中に打ちつけた。何度も。

ゴロウの服が破れ、皮膚が裂けた。背骨を模しているチタンが見えた。血管を模したコードからは赤い油が吹き出た。ゴロウの口からも油が溢れたがゲンの腕は止まらなかった。

「お願いします。やめて下さい」
「自意識もないくせに何を言ってますか」
「機能停止(死)になってしまいます」
「はい。では、そうしましょうか」

ゴロウの顔に両手を添えると力を込めて首を捻った。ゴロウの目が見開かれる。ボキリと音がして彼は機能停止となった。ゲンはゴロウの身体を担ぐと池に運んで放り投げた。

全く呆気ない事だった。実際のところ、戦士のゲンならばエムウェイブを利用せずとも宅配ピザ店のアンドロイドなど容易く倒せるが戦うことに意義を見出していないのだ。

4肢の自由を奪って一方的に殺せるならば楽勝だ。ゲンは微笑みながらゴロウが乗って来た自転車も池に放り投げた。鯉が驚いて逃げ惑ったがやがて水面が落ち着いた。

重い身体のゴロウも自転車もその存在が暴かれる事はないだろう。ゲンはエムウェイブを繁々と眺めて笑うと鼻歌混じりに公園を去って行った。その姿を見る者は誰もいなかった。

ゴロウを雇っているピザ店では彼が戻って来ないので、AIがGPSで追跡した。だがゴロウの行方は不明だった。ゴロウがSOSを放つ前にゲンがメモリを制圧したからだ。

ピザ店のオーナーはラボに連絡するだろう。ラボはゴロウを探すだろう。だが電波を捉えられない。機能停止したからだ。ゴロウは消えたのだ。だが問題ない。マシンの1体や2体など。

やがてアンドロイドが消える事象がこの先増えるのだが世間では噂にもならなかった。ただ1人知る者はアンドロイドのゲンだけだ。エムウェイブを大いに活用したのだ。23区内で1体ずつ。

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